第8話

文字数 979文字

 仁は昔から春花に近づく男を排除してきた。

 親戚の養子となり小学校を転校してきたのが11歳の夏休み明けで、春花とはクラスは違えど、同じ学校、同じ学年の生徒だった。

 親戚である杉山家は仁を養子に迎え入れて間もなく、駐車スペースの上に設けられていたバルコニーを改築して仁の居住スペースをつくった。そこには所狭しとバス・トイレ・キッチンも装備され、まるで家族の輪から追い出して孤立させているようでもあった。そうなった原因は杉山家の嫁である恵梨香が家庭に入ってきた異物である仁を毛嫌いしたことにある。

 恵梨香はもともと仁を養子に入れることには反対だった。そもそも仁と杉山家は親戚といってもかなり遠く、仁の母のはとこの嫁の弟が杉山家の主の修二であり、もはや他人に近い。なので互いに会うのも初めてで、ただでさえ異物を家に入れたくない恵梨香は何故そんな訳の分からない子をいきなり養子にしなくてはいけないのかと憤怒した。
 それでも修二が押し切って仁を養子に迎え入れたのだ。すると納得をしていない恵梨香は仁に意地悪をするようになった。

 1番分かりやすい意地悪は、全てにおいて6歳の娘である梨沙との差を明らかにつけたことだ。梨沙には優しく会話をした後、仁には普通に言えばいいことをわざわざきつい口調で言ったり、梨沙にはおやつを出しても仁には出さなかったり、梨沙の食事の量は食べきれないほど多くして仁の分は明らかに足りない量に減らしたり、仁の分だけ洗濯物を畳まずにぐちゃぐちゃに丸めて仁のクローゼットに突っ込んだり、毎日欠かさず朝から晩まで仁に意地悪をし続けた。

 それを見かねた修二は恵梨香を何度も叱ったが改善することはなく、それどころか激高し「面倒をみるのは全部わたしじゃない!!」とわめき散らした。それを受けて修二が「恵梨香が働いて僕が専業主夫になってもいいんだよ」と売り言葉に買い言葉で反撃すると、働きたくはないし、裕福な今の生活を手放したくもない恵梨香は黙ったが、それでも仁への意地悪が止むことは無かった。結局、修二は仁に謝りながらもバルコニーに仁専用の居住スペースをつくり、仁を恵梨香から避難させるしかなかった。

 そんな家庭内の事情は同じ小学校に通う梨沙から常に児童たちへと発信され、イケメン転校生という目立つポジションにいる仁の噂はあっという間に全校に知れ渡っていた。
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