第19話

文字数 1,167文字

 やがて高校生になった仁は春花と同じ都立理路高校に進学していた。すでに精良大学の特待生を狙っていた春花は中学1年から猛勉強を始め、偏差値70である理路高校の合格を勝ち取った。それでも大学受験の偏差値に換算すると60くらいになり、しかも主席になれなかった為、このままでは精良大学の特待生は不可能だと判断した春花は更に勉強漬けの3年間にしようと心に決めていた。一方仁は地頭がいいため、本来もっと上の高校に行けると言われていたこともあり、そこそこの努力で理路高校に主席合格だった。

「よぉ仁、俺等同じクラスじゃん。よろしくな」
 快俐もまた同じ高校に合格しており、陽気な声でそう言いながら、入学式が終わり教室に入ろうとする仁の肩に右腕を回した。快俐とは中学2年のとき以来1年ぶりに同じクラスである。
「羽鳥さんとはまた違うクラスだな」
 快俐は廊下にいる春花のほうへ目をやった。

 仁と春花は小学生のころから同じクラスになったことは1度もなかった。今度こそはと期待をしていたが、結局違うクラスである。

 春花は理的で極端なところはあるが、情に厚くコミュニケーション能力もそれなりに高い。春花の隣にはすでに新しい友人が肩を並べており、廊下の窓から外に視線を向けて楽しそうに喋っている。そんな春花を何人かの男子がチラチラと見ていることに仁は不愉快になりながらも、チャラそうな男がいないことに僅かに安堵していた。学校によって雰囲気は違うが、理路高校は真面目でオタク気質で女子との免疫が少なそうな男子が多いのだ。

「ねぇ、あのひと入学式で代表あいさつしてたひとじゃない?主席ってことだよね?」
「多分。背ぇ高いしイケメンだよね」

 仁を見ながら大きなヒソヒソ話をする女子たちに視線を移すと、茶髪に緩くパーマをかけてメイクをしている。女子は全体的にお洒落で外交的な雰囲気である。そんな中、黒髪でメイクもせず、スカート丈も膝下で一切お洒落をしない春花は野暮ったいはずだが、生まれ持ったその綺麗な顔が清楚に見せていた。加えて自信のない内気な男子たちにとっては春花くらいの格好のほうが親近感が持てて逆に良いのだ。

 仁は男たちを牽制するために春花に話しかけた。
「今日終わったら春花のクラスに迎えにいくから」
「うん。その話朝したよ」
「そうだね。念のため」

 仁と一緒にいる快俐は春花を見ている男達の反応を見回した。どの男もショックを受けたように仁と楽しそうに話す春花から目をそむけている。【なるほどねぇ~】快俐は再び仁と春花に視線を戻した。主席イケメン男子と仲の良い美女。自信の無い男なら入り込む余地などないと諦めるのが普通だ。そのうえ会話の内容を聞いた者は付き合っていると誤解してもおかしくない。【相変わらず回りくどいな】そう思いながらも快俐は一途な仁の恋を密かに応援していた。
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