第27話

文字数 1,483文字

 澄み渡る青空の下、理路高校に向かう天使の足取りは軽かった。
「オハヨ!今日も良い天気!」「ロン毛似合ってるよ!」「生きるって素晴らしい!」
 早足で追い抜く生徒たちに声をかけながら昇降口をくぐり、自身の下駄箱を開けると、上履きの上に白い封筒が置かれていた。
「何だ?『1年2組山本環奈様』?間違えたのか」

 天使は1年2組のドアから教室内を覗くと、ドア付近で喋っている女子2人に話しかけた。
「山本環奈って子いる?」
「山本さん?」そう言いながら教室内を見回す女子生徒の隣でもう一人の女子生徒が「ああ、あそこにいるよ」と窓際を指さした後大声を出した。
「山本さーん!呼んでるよ!」

 環奈はドア前に立っている天使を見るなりつぶやいた。
「誰?」
「知らないの?」
 愛羅が聞く傍らで詩歌が興味津々な目で天使を見ていた。
「え?でもちょっとイケメンじゃね?つかオタクじゃないのは全部イケメンに見える」
 訝しげな表情で椅子から立ち上がる環奈に「あーし等も行ったげる」と詩歌が言うと愛羅も黙って立ち上がり、3人で天使のほうへと歩を進めた。

 天使は近づいて来る3人を目にするなりかわいいと思った。天使の前で立ち止まった3人の中でも鼻筋が通った綺麗系の環奈が「なに?」と聞くと天使はやや頬を染めながら手紙を差し出した。
「これ、間違って俺んとこ入ってた」
 環奈はそれを受け取るとすぐに封を切り、中にある白いメモを取り出して読み上げた。
「『好きです。付き合ってください。天使』天使……?」
 眉を寄せる環奈に天使は手紙をのぞき見た。
「え?天使……?つかそれ多分ミカエル、俺の名前じゃね?」
 環奈は「は?」と更に眉を寄せた。
 愛羅が「あんたが書いたの?」と聞くと天使は「いや」と答えるが詩歌が「間違ったとか言って来るとか新しい告白法じゃね?」と眉がしらを上げて笑いながら言うので、話は天使が告白しに来たという流れになった。

「いや、だから違うって!その字も俺んじゃねぇし!」
「じゃぁオメー書いてみろよ」
 愛羅がスマホのメモ書きアプリを起動させて差し出すと天使は指で『天使』と書いた。ミミズが這うようなその字を見た愛羅は「きったねぇ字だな!」とけなし、詩歌は「いくら字が汚ぇからって人に書かせちゃ駄目くね?」とあくまで天使が告白をしに来たというていで話を進めた。
「だからちげーって!!
 思わず上げた天使の大声に他の女子たちが「どうしたの?」と集まってきた。

 詩歌が面白そうにニヤニヤとしながら天使を指さした。
「コイツが環奈に告りにきたけど怖じ気づいて否定し始めちゃってさぁ」
 それを真に受けた女子たちはそれぞれ言いたいことを次々と口にした。
「え?ダッサ」
「小学生じゃないんだから素直になったほうがいいよ」
「ちゃんと告白しないと後悔すると思う」
「ここまで来たなら勇気だしなよ」
「フラれてもいいじゃん」
「諦めたらそこで試合終了だよ」

 天使は反論をしたくて口をパクパクとさせたが、矢継ぎ早に責め立てる女子たちに圧倒されて頭が混乱し、言葉が出てこなくなってしまっていた。そのとき予鈴が鳴り響いた。と同時に「授業の準備しなきゃ」とまるで何も無かったかのように天使を責めるのをやめた女子たちは一斉にその場から散ると各々の席についた。いつまでも2組のドア前に立ち尽くしたままの天使に環奈は冷ややかな視線を送ると「ダッサ」と一言残してドアを閉めた。

 天使は「一体何だったんだ」と悶々としながら自身の教室に入り、席に座ると、隣の春花が「おはよう。ギリギリだね」と声をかけたので悶々とした気分は吹き飛び、いつもの上機嫌に戻った。
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