第38話
文字数 1,794文字
いつものように登校した喪太郎は、リトルバクニュウズのメンバーたちに取り合いをされる妄想をしながらご機嫌に下駄箱を開けた。すると上履きの上にリトルバクニュウズの絵がプリントされた紙袋が乗っていた。
「おお!!リトルバクニュウズの袋!!」
興奮しながら【もしかして俺に惚れた女からかも】と期待に胸を膨らませて中を覗くと小型カメラと理路高校の校内案内図が入っており、校内案内図には女子更衣室や女子トイレに赤い丸でしるしがされていた。
【これは......!!】
喪太郎はいそいそと袋の口を曲げて閉じると周りに見ていた人は居ないかとキョロキョロとしながらスクールバックの中に突っ込んだ。
一方その頃、1年生が主に使用する女子トイレの入り口に小型カメラが落ちていたと騒ぎになっていた。
快俐と一緒にいる仁が騒いでいる女子に「どうしたの?」と話しかけた。中心となって騒いでいた大柄な女子生徒は仁に頬を染めながら手の平に乗せた小型カメラを差し出した。
「女子トイレのスリッパの所にカメラっぽいのが落ちてて......」
仁はカメラを手に取って見ると「何でこんなものが」と不思議そうにし、続けて「先生には言った?他の女子トイレや更衣室にもカメラがあるといけないから調べたほうがいいかも」と言いながらカメラを女子生徒に返した。
それを受けて女子生徒は「そうだね!今から行ってくる!」とカメラを握りしめ、その場にいる大勢の女子たちに囲まれて職員室へ向かった。
その日、女性教師たちは全校の女子トイレや更衣室を調べたが、カメラは見つからなかった。しかし女子の間ではその噂が瞬く間に広がり、警戒心が強まっていた。
臭い上に自己中心的で嫌われ者の喪太郎は誰とも接点がなく、そんなことになっているとは知らずにこの日の放課後、小型カメラを設置する場所を探しながら校内を徘徊していた。
【更衣室は下着姿止まりだがトイレは下着の下も見れる。トイレならひとけのない特別校舎のほうが仕掛けやすいか。だがそれだとトイレを使う女も少なくなる】
そんなことを考えながら人目を気にしつつ同じ場所を何度もうろうろとするその様子はどこからどう見ても不審者でしかなかった。
やはり利用者数が多いトイレにしようと決めた喪太郎は女子トイレの中ではもっとも馴染み深い1年生のトイレに狙いを定めた。そこは朝カメラが落ちていたと騒ぎがあったトイレである。
喪太郎は周りに人が居ないことを確認すると素早く女子トイレに入った。
誰にも見つからなさそうでありながらカメラを仕掛けられる場所は天井の換気扇の所くらいしか見当たらない。本当は下のアングルからがよかったのだが、早くしないと人が来るという焦りから妥協して換気扇の真下にあたる個室に入り、便器の蓋を閉めてその上に乗った。便器の蓋は喪太郎の体重でミシミシと音が鳴った。換気扇には埃が溜まっており、触ると顔面に埃が落ちてくる。ケホケホとむせながらもなんとか換気扇の蓋を外してカメラを仕掛け終えて便器から降りようとしたとき、「なにやってんの!?」とトイレの個室のドアより上の部分に肩から上を出した喪太郎を大勢の女子生徒たちが睨んでいた。
喪太郎の頭の中は真っ白になった。
喪太郎は警察に通報され、学校は退学処分となった。
喪太郎が退学処分となった翌日、全校集会で校長がその話をしているのを聞きながら快俐は一人挟んで後ろに立つ仁に振り向いた。快俐の視線に気付いた仁は快俐と目を合わせると心なしかスッキリしたような微笑を浮かべた。再び演台の上で話す校長のほうへ視線を向けた快俐は【間違いないな】と確信していた。中学2年の秋、仁は陰木を不登校へと追いやった。このことを知っているのは快俐だけである。仁は今回も敵と周りを自分の思い描いた方向へ誘導し、望む結果を手に入れたのだ。普通なら怖いと感じるであろう仁の裏の顔を知りながらも快俐は仁から離れようとは思わない。何故なら仁のいいところ――たとえば根が優しかったり約束を必ず守ったりするところなど――を知っているからだ。だいたいにしてこの世に欠点のない人間など存在しない。ただ単純な疑問はあった。
【その能力がありながら何故羽鳥さんを振り向かすことが出来ないんだ?】
そしてふと思う。
【もし仁の裏の顔を知ったとき、羽鳥さんは今まで通り仁を受け入れることが出来るのだろうか?】
「おお!!リトルバクニュウズの袋!!」
興奮しながら【もしかして俺に惚れた女からかも】と期待に胸を膨らませて中を覗くと小型カメラと理路高校の校内案内図が入っており、校内案内図には女子更衣室や女子トイレに赤い丸でしるしがされていた。
【これは......!!】
喪太郎はいそいそと袋の口を曲げて閉じると周りに見ていた人は居ないかとキョロキョロとしながらスクールバックの中に突っ込んだ。
一方その頃、1年生が主に使用する女子トイレの入り口に小型カメラが落ちていたと騒ぎになっていた。
快俐と一緒にいる仁が騒いでいる女子に「どうしたの?」と話しかけた。中心となって騒いでいた大柄な女子生徒は仁に頬を染めながら手の平に乗せた小型カメラを差し出した。
「女子トイレのスリッパの所にカメラっぽいのが落ちてて......」
仁はカメラを手に取って見ると「何でこんなものが」と不思議そうにし、続けて「先生には言った?他の女子トイレや更衣室にもカメラがあるといけないから調べたほうがいいかも」と言いながらカメラを女子生徒に返した。
それを受けて女子生徒は「そうだね!今から行ってくる!」とカメラを握りしめ、その場にいる大勢の女子たちに囲まれて職員室へ向かった。
その日、女性教師たちは全校の女子トイレや更衣室を調べたが、カメラは見つからなかった。しかし女子の間ではその噂が瞬く間に広がり、警戒心が強まっていた。
臭い上に自己中心的で嫌われ者の喪太郎は誰とも接点がなく、そんなことになっているとは知らずにこの日の放課後、小型カメラを設置する場所を探しながら校内を徘徊していた。
【更衣室は下着姿止まりだがトイレは下着の下も見れる。トイレならひとけのない特別校舎のほうが仕掛けやすいか。だがそれだとトイレを使う女も少なくなる】
そんなことを考えながら人目を気にしつつ同じ場所を何度もうろうろとするその様子はどこからどう見ても不審者でしかなかった。
やはり利用者数が多いトイレにしようと決めた喪太郎は女子トイレの中ではもっとも馴染み深い1年生のトイレに狙いを定めた。そこは朝カメラが落ちていたと騒ぎがあったトイレである。
喪太郎は周りに人が居ないことを確認すると素早く女子トイレに入った。
誰にも見つからなさそうでありながらカメラを仕掛けられる場所は天井の換気扇の所くらいしか見当たらない。本当は下のアングルからがよかったのだが、早くしないと人が来るという焦りから妥協して換気扇の真下にあたる個室に入り、便器の蓋を閉めてその上に乗った。便器の蓋は喪太郎の体重でミシミシと音が鳴った。換気扇には埃が溜まっており、触ると顔面に埃が落ちてくる。ケホケホとむせながらもなんとか換気扇の蓋を外してカメラを仕掛け終えて便器から降りようとしたとき、「なにやってんの!?」とトイレの個室のドアより上の部分に肩から上を出した喪太郎を大勢の女子生徒たちが睨んでいた。
喪太郎の頭の中は真っ白になった。
喪太郎は警察に通報され、学校は退学処分となった。
喪太郎が退学処分となった翌日、全校集会で校長がその話をしているのを聞きながら快俐は一人挟んで後ろに立つ仁に振り向いた。快俐の視線に気付いた仁は快俐と目を合わせると心なしかスッキリしたような微笑を浮かべた。再び演台の上で話す校長のほうへ視線を向けた快俐は【間違いないな】と確信していた。中学2年の秋、仁は陰木を不登校へと追いやった。このことを知っているのは快俐だけである。仁は今回も敵と周りを自分の思い描いた方向へ誘導し、望む結果を手に入れたのだ。普通なら怖いと感じるであろう仁の裏の顔を知りながらも快俐は仁から離れようとは思わない。何故なら仁のいいところ――たとえば根が優しかったり約束を必ず守ったりするところなど――を知っているからだ。だいたいにしてこの世に欠点のない人間など存在しない。ただ単純な疑問はあった。
【その能力がありながら何故羽鳥さんを振り向かすことが出来ないんだ?】
そしてふと思う。
【もし仁の裏の顔を知ったとき、羽鳥さんは今まで通り仁を受け入れることが出来るのだろうか?】