第37話

文字数 983文字

 翌月曜日、春花は退院していたが、両足首を捻挫しているため通学が難しく、治るまで学校を休むしかなかった。

「授業内容は帰ったら教えるよ」
 朝、羽鳥家に寄った仁は、勉強が遅れることを心配する春花にそう言い残すと自転車にまたがり、そのまま学校へと向かった。

 一方喪太郎のほうもバスで学校に向かっていた。
【昨日は散々だったな。羽鳥春花は勝手に崖から落ちたというのに警察に疑われるし、羽鳥春花は貧乳だったし......】
 窓の外を眺めていた喪太郎は春花の胸を触った手に視線を落とした。柔らかい感触が甦る。
【抱きついた感触も柔らかかったな......】喪太郎の下半身が滾った。昨晩はその感触を思い出し何度も抜いた。そのくせ貧乳である春花は喪太郎の中では格下の価値に下がっており、もはや憧れの存在ではない。しかしながら格下の身体でも女は皆柔らかいのかと考えながら満員のバス内にいる女性たちの身体を舐めるように見渡した。

 『理路高校前』でバスが停まると大勢の生徒たちがバスを降りてぞろぞろと学校へと向かう。学校はすぐ目の前にあり、昇降口までは5分もかからない。たまに聞こえる女子たちの大きな笑い声を耳にしながら喪太郎はうつむいて廊下を歩いた。ふと春花と一緒にいたギャルやその他大勢が、春花が喪太郎に崖から落とされた等言いふらしていたらどうしようなどと不安になった。

 教室に足を踏み入れるなり、窓際後ろから2番目の春花の席に視線を向ける。いつもこの時間にはスクールバックが机にかかっているが、今日はない。分かっていても再確認してしまう。その後ろの席の夏苗がクラスの女子と話している姿に、自身のことを言いふらしているのではないかと恐怖に苛まれる。

 しかし、それから3日が経ち、1週間が経ってもそんな噂がたっている様子はなかった。安心し始めた喪太郎の脳内では全てがプラスのほうへ変換され始めた。
【羽鳥春花はやはり俺のことが好きで、俺に不利益になることは言うなとギャルたちに口止めしてるのかも知れない】
【そもそも俺は未成年だから何をしても罪には問われないはずだ。だからあの日警察に嘘がバレてもすぐに帰れたんだ】

 喪太郎は1人で勝手に安堵していた。

 しかし仁はそんな喪太郎の様子を廊下で見かけるなり【そろそろ頃合いか】と言い知れぬ怒りを抑えながら喪太郎を春花の人生から消す準備に取りかかった。
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