第5話

文字数 1,104文字

 庶民を装うため、マンションから大学までに乗る電車は調べてあるし、切符の買い方、電車の乗り方も何度も練習をしたから分かる。練習で何度も通った馴染み深い道が今日は違って見えた。
【クソ!クグールマップに無いってことはマジで無いのか……!】
 義翔は覚えたてのクグールマップの使い方をまさかこんな形で活用するはめになるとは夢にも思っていなかった。
 焦りながら走りスマホをしていると何かにぶつかり「うおっ」と思わず声をもらして立ち止まった。同時に「キャッ」という女性の悲鳴がして、見ると義翔と同じくらいの年齢と思われる清楚系のかわいい女性が転倒していた。
「ごめん!!大丈夫!?
 さっきよりも更に焦りながら女性に手を差し伸べていると、後方から2人の女性が走ってきて「愛羅!」「大丈夫!?」と大声を出した。
 
 転んだ愛羅という名の女性は茶髪のロングにゆるふわパーマをかけ、スーツ素材の白いワンピースに淡いピンクのジャケットを羽織っている。友人に囲まれた彼女は、義翔を睨み付けると「イッテェなクソ野郎!!!だせぇ格好しやがって!!!」と巻き舌をつかって罵声を浴びせた。

 清楚で可愛い女性が罵詈罵倒をしたことに何が起きたのか頭が追いつかず呆然としていると、愛羅とその友人2人は義翔の悪口を言いながら駅の入り口へと歩いて行った。いつまでも立ち尽くして見ている義翔に、愛羅の友人の一人である環奈が振り向いた。黒髪ゆるふわセミロングヘアーの彼女は、一重ではあるが目が大きく、鼻筋もスッと通っており、どちらかと言えば綺麗めな顔立ちをしている。ベージュ系の落ち着いたスーツを身にまとっている彼女もまた清楚そうに見えた。しかし彼女は軽蔑の眼差しで義翔を睨むなり「ダッサ!」とひとこと言い残して去って行った。
 
 心に銃弾をくらった義翔はその場に崩れ落ちた。駅前で膝を突き肩を落とす義翔の背後から「ああ、居た居た、坊ちゃん!」と銀次が黒いフライングスパ―の窓を開けて呼びかけるが義翔は固まったまま動かない。仕方なく運転席から降りた銀次はヘルメスの黒いスーツを右手で雑にかかげながら「質屋行ったらまだ売れてなかったのでとりあえず回収してきマシタぜぃ」と、まるで手柄でもたてたかのように得意げに義翔に報告した。義翔は耳をピクリと動かすと「質屋……?」と我に返って立ち上がり、銀次に詰め寄った。
「まさか俺の荷物全部質屋に入れた訳じゃないだろうな?」
「入れマシタよ。当たり前じゃないデスか」
「ふざけんな!今すぐ全部回収してこい!!」怒鳴ってすぐにハッとした義翔は「いや、やっぱそれは後でいい!急いで大学まで連れて行け!」と車の後部座席に乗り込んだ。
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