第30話

文字数 1,281文字

 この日、木喪井喪太郎も理路高校の近くの山にある展望台に来ていた。目的は春花である。2日前、天使が大きな声で春花に「土曜日はそこの山の展望台がいいから晴れて欲しいよな」と言っていたのを聞き、天使とデートでもするのかと焦って先回りして待っていたのだ。
 しかし現れたのは杉山仁も含めたリア充7人だった。リア充の中に紛れる春花に近づくことなど出来るはずがなく、なにより2組の可川愛羅、前田詩歌、山本環奈はギャル系で、喪太郎がこの世で最も苦手で嫌いな人種である。
「クソ……あの高校で唯一苦手な3人がなぜ清楚でおしとやかな羽鳥春花と一緒にいるんだ……!?
 喪太郎は遠くの木陰に隠れながら勉強する彼らの様子を覗った。

 その頃夏苗は喪太郎の体臭を感じ取っていた。
「ねぇ、なんか臭くない?」
 隣に座る春花は「え?」と目を丸くすると鼻をクンクンとさせて周りの臭いをかいだ。
「別に臭くないけど……」
 その返事を受けて今度は夏苗が鼻をクンクンとさせた。
「いや、やっぱり木喪井の臭いがするよ」
 春花は再び目を丸くさせた。なぜ学校外で木喪井喪太郎の臭いがすると言うのか分からなかった。思いつく答えはひとつだった。
「夏苗ちゃん鼻いいから教室から風で流れてきた臭いかな?」
「まさか」

 たしかに夏苗の鼻は生まれつき人より良かった。おかげで近所のボヤの煙の臭いに最初に気付いて火事になるのを防いだことや誰も気付かない車の微妙なガソリン臭に気付いて故障が大事に至る前に修理できたと褒められたこともあった。

「どうかした?」
 仁が春花と夏苗に問いかけた。仁の隣に座る快俐も春花と夏苗を見ている。そこに愛羅が「え?なに?」と割り込むと詩歌も「なんかあったの?」と不思議そうな顔をした。

「いや……なんか変な臭いがしてさ。それがクラスの臭い人と同じ臭いなんだ」
「知ってる!それってモンスーンじゃね?」夏苗に指さしながら言う愛羅に夏苗は「そうとも呼ばれてる」と答えた。

「マジでモンスーン?」
「つかそれって近くにいるってことじゃね?」
 愛羅と詩歌も眉を寄せながらクンクンとし始めた。
「べつに臭わなくね?」
「モンスーン臭嗅ぎすぎて鼻にこびり付いたんじゃね?」
 愛羅に続き詩歌が夏苗にそう言うと夏苗は「まさか」とあり得ないといった声を出した。
 愛羅が詩歌を指さしながら深刻そうに言った。
「それな。これは呪われたね」
 そういうノリだと気付いた夏苗は笑いを漏らしながらも聞いた。
「呪いってどうすれば?」
 愛羅が真顔で答えた。
「除霊行くしかなくね?」
「つかあいつファプリースかけたら臭い消えるんじゃね?除霊になるくね?」
 詩歌が名案を思いついたような口ぶりで言ったのち「つーかトイレ行きたいんだけど」と愛羅と顔を見合わせながら話を変えた。
「行こ」
 愛羅が立ち上がると、夏苗も立ち上がった。
「わたしも行きたい」
 春花は別に行きたくなかったが、学校でいつも一緒にトイレに行っているので思わず「わたしも」と一緒に立ち上がった。

 快俐はトイレに向かう女子たちの背中を見送りながら仁の隣でつぶやいた。
「女って連れション好きだよな」
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