第21話

文字数 1,474文字

 春花と出来る限り一緒に居たい仁ではあったが、学校での食事はなるべく別でとるように心がけていた。理由は2つあり、1つは女子にとってランチタイムは貴重であり春花が女子から孤立しないようにというのと、もう1つはかなり付きまとい過ぎていることは自覚しているので、少しは春花に付きまとわない時間――平日昼の45分間だけ――をつくったほうがこの先も付きまとい続けやすいだろうという戦略である。

 屋上でいつものようにパンを食べる仁と快俐は昨日から屋上に来はじめた女子たちの会話を耳にしていた。

「この学校マジで男オタク系ばっかじゃん」
「女子はイケてる子多いのになんなの?この格差」
「でも主席の人はイケメンじゃね?」
 貯水タンクを挟んで向こう側に座る仁と快俐の存在に気付いてない彼女らはかなり大声で喋っている。
「でも彼女いるじゃん」
「つぅかその人と一緒にいるメンズもなにげイケメンじゃね?」

 快俐は微笑を浮かべながらも呆れた顔で「俺等いるっつーの」とつぶやいた。仁は空を眺めながらどうすれば春花を振り向かせることが出来るかについて考えていた。聞きたくも無い女子トークは変わらず大声で続いている。

「てかさ、あたし授業ついてくの大変なんだけど」
「わたしもすでに置いてかれてる」
「あーし等もしかしてかなりギリでここ入ったんじゃね?」
「ぶっちゃけあたし補欠合格」
「マジか。こうなりゃせめて将来成功しそうな男キープしとくしかねぇな」
「でもオタク系キツくない?」

 仁は空を眺めながらかつて仁のことを影で『有望株』と呼んでいた女子たちを思い出しながら【春花以外の女は皆こんなものだろうな】と考えていた。そこには落胆や怒りはなく、あるものは単純に『そんなものだ』という納得である。塩バタークリームチーズバニラプリンパンを食べ終えると立ち上がり、いつものようにフェンス越しに裏庭へ視線を落とした。春花は、新学期に廊下で喋っていた夏苗とすっかり仲良くなっており、いつも裏庭で一緒に弁当を食べているのだ。しかしこの日、仁の目に飛び込んできたのは、夏苗と見たことのない金髪男に挟まれてベンチに座っている春花の姿だった。

「え?誰アイツ」
 フェンスにしがみつく仁にヒレカツパンを食べていた快俐が「どうした?」と立ち上がり、仁の隣に立つと裏庭に視線を落とし、すぐに理解した。
「あんなヤツいなかったよな」
「ちょっと行ってくる」
 焦ってそう言いながら仁が駆け出そうと振り返ったとき、貯水タンクの向こう側から顔を出す女子3人衆と目が合った。『女子はイケてる』と自分たちで言うだけあって、3人ともそれなりに整った容姿をしている。このとき仁の脳内でひとつの策が浮かび上がった。と同時に3人衆は驚いた声で喋った。

「マジでイケメン主席じゃん!」
「つかいつからいたの?」
「あーし等の話聞いてた?」

 快俐が微笑みながら「嫌でも聞こえてきたよ」と友好的に答えると女子たちは笑顔になり、吸い寄せられるように快俐と仁のもとへ歩を進めた。

「2人仲良いよね」
「おな中?」
「あーし等はここ来てから仲良くなったんだ」

 相手に嫌がられるかも知れないという発想がない彼女等は当然のように快俐と仁の前で立ち止まると質問や自己紹介を続けようとした。仁は笑顔をつくり「悪いけど俺今から用事あるんだ。4人で喋ってて」と優しい口調で言った。それに女子3人衆は頬を染めた。快俐は、去る前に一瞬だけ目を合わせた仁が微笑みながらも意味深な表情をしたことを【押しつけて悪いってことか】と解釈し、【別にいいけど】と取るに足らない女子たちの相手をした。
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