第31話

文字数 1,063文字

 自販機は展望台から5分ほど下った所に作られている小さなバス停のようなプチ休憩所に1つだけある。
 天使と環奈は木製の古いベンチに座りながら小さなビルや民家や空を眺めていた。コーラを飲む天使につられて天然水を一口飲んだ環奈は【なんで告らないの?絶好の告るタイミングじゃん】とじれったく感じ、思わず口を開いた。
「わたし、嫌いな男子とはこんなふうに二人きりで同じベンチに座ったりしない……」

 天使は環奈に視線を向けるとその言葉の意味を考えた。
【前のときのこと気にしてんのか。まぁ、少し喧嘩みたいになったしな】
 天使は笑顔になり、あっけらかんとした声で答えた。
「ああ、俺も同じだ」
 肩透かしを食らったような気持ちになった環奈は驚きながら天使に視線を向け、顔を見合わせた。
【え?今のがまさか告白……?告白っていつももっとちゃんとした言葉でしてもらってたけど……?】

 綺麗系とよく言われる環奈は今までそれなりにモテてきた故にそれなりのプライドがあったし、告白をせずに付き合おうとする男はその相手に本気ではなく遊びだという環奈なりの哲学があった。

 天使は微笑みながら続けた。
「まぁ、あのときは色々誤解があったけど、今はこうして仲良くなれた訳で、結果オーライ、雨降って地固まるだ」
 環奈はポカンとしていた。
「……まさか告白せずにわたしと付き合うつもり……?」
「え?付き合う……?」
 環奈の目付きが怒りに染まり、握りこぶしをつくると身体をワナワナと震わせ始めた。
「……ざけんな……」
「え?」
「ちょっとわたしがアンタを好きになったからって告りもせず手に入るほど安くはねぇんだよ!!!わたしと付き合いたかったらちゃんと告りやがれ!!!」
 天使は固まった。
「え……?好き……?って環奈が俺を……?」
 ハッとした環奈は真っ赤になった。それを見た天使も真っ赤になった。
「あ……えっと……マジ……?」
「……何度も言わすな……自分は何も言ってねぇくせに……」
 顔を赤らめて涙目でうつむきながらそう言う環奈がとてつもなく可愛く見えて天使はキュンキュンとし始めた。
「……えっと……どうしよう……俺もなんか環奈が好きになってきた……」
 環奈は涙目のまま黒目がちで大きな目を上目遣いにさせて天使を見ると恥ずかしそうに弱々しい声で言った。
「好きになってきたってなんだよ……?最初から好きなんだろ?ばか……」
 天使はハートを打ち抜かれた。
「す……好きだ!環奈!!俺たち付き合おう……!!!」
 環奈の両手を自身の両手で包むようにして握りしめた天使は勢い余って告白していた。
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