第51話

文字数 867文字

 義翔は仁が兄を殺したかと思うと憎くて仕方がなかった。
 愛羅から聞いた話によると仁は小学5年生の夏休みにこの地へ養子として来たという。愛羅は小、中学は仁と同じではなかったが、高校時代に他校の友人の友人が仁と同じ小学校でそう話していたというのだ。
 義翔が小学5年生の夏休みに兄は亡くなり、いじめっ子だったニンは学園を去った。時期が一致する。こうなるともはや偶然などではないと言わざるおえなかった。そんな男が春花に付きまとっていると思うと春花の身が心配で仕方なく、一刻も早く春花から仁を引き離す必要があると感じていた。

 義翔は今でも死んだ兄の夢をみる。兄はいつも笑顔で明るく聡明で全ての人に愛されていた。学年でもリーダー格で多くの児童に頼られ、義翔が困っているときもいつでも助けてくれた。だから小学5年生の夏も、義翔をいじめていたニンに怒ってくれたのだ。なのにそのせいで殺されてしまった。だが今警察に言って仁による他殺だったと発覚したところで当時14歳以下であった仁が正当に裁かれることはない。
【どうすればいい?兄ちゃんは何を望んでいる?】
 義翔は愛羅たちが帰った後の静かな自室の窓から夜空を見上げた。
   

 この日、春花より2時間早い0時上がりだった仁は一旦家に帰るためにファミリーレストランの従業員出入り口から出た。するとそこにはいつも隠れて仁を見張っているはずである眼鏡をかけた男が、いつもの私服姿ではなく黒スーツを身にまとい堂々と待ち伏せていた。訝しげに思いながらも素通りしようとする仁に、眼鏡男は話しかけた。

仁朱(じんす)様。会長が話をしたいとのことです。どうか屋敷へお越しください」
 男はファミリーレストランの隅に停めてある白いロールスロイスに手のひらを向け示した。どう見てもファミリーレストランには場違いな車である。
「俺は仁だ。仁朱などではない」
 再びその場を去ろうとする仁に眼鏡男は言った。
「仁様。会長はずっとあなたを心配しておられます」
「俺の心配……?会社の心配の間違いじゃないのか?」
 そう言うと仁は足早にその場を立ち去った。
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