第47話

文字数 1,452文字

 銀次は古くからの友人である相馬と話をするために居酒屋で待ち合わせをしていた。
刑事である相馬は急な残業が多い故に約束通りの時間に来ることが少なく、最悪反故にされることも度々あった。なので気長に構えて好きなカルアミルクを飲みながらスマホで子猫の育成ゲームをしていた。するとブッブッとスマホのバイブが鳴り、LEINの通知がポップアップされた。『相馬 悪い遅れる』その通知に銀次は「どれだけ遅れるんだよ?」と相変わらず雑な相馬にぼやきながら画面の中のかわいい子猫にミルクを与えた。

 相馬がやって来たのは1時間後だった。
 悪びれていない口ぶりで「悪い、待たせたな」と言う相馬に【思ったより早かったな】と思いながら子猫におもちゃを与えてスマホをテーブルに置いた。

「相変わらず忙しそうだな」
「まぁな。聞きたいことってなんだ?」
 相馬は店員にビールを頼むとネクタイを緩めた。銀次は「ああ、実は」と少し間を空けてから話し始めた。

「東宮家の長男が事故死した件のことで次男が他殺だと言い始めてさ。もう8年も前のことだから難しいかも知れんが事故のときの様子が分かれば教えてほしいと思って」
 相馬は眉を寄せた。
「東宮グループの長男……?事故死したなんて初耳だぞ?」
「都外の川の事故だったから相馬は管轄外だろうからな」
「何処だ?」
「埼玉」
「埼玉になら何人か友人がいるから聞いてやれなくもないが、あまり期待しないでくれ。けど今までそんな話したことなかったよな?」
「東宮グループの社長から口止めをされてたからさ」
「口止め……?なんで?」
「さぁ?息子の死をあれこれ興味本位のネタにされるのが嫌だったんじゃねーの?」

 その後事故があった年月日などを書いてきたメモを渡し、互いの近況や高校時代の同級生の噂話を1時間ほどして解散した。


 その頃義翔は愛羅たちに部屋を占拠されていた。ベッドに寝転びながらスマホで仔犬の育成ゲームをする愛羅と詩歌は互いに育てた犬たちを訪問させあってアイテムをゲットしている。ベッドを背もたれにして床に座っている環奈は新しい彼氏とLEINをしていた。黙ってやっているのならまだいいのだが「やった!」だの「まじで?」だの「あいつ浮気してやがる」だの常に口が動いているので騒がしくて仕方ない。
 大学のレポートを作成している義翔は集中できずにイライラしていた。

「野良犬サークルじゃなかったのかよ!?もう11時だし終電なくなるから帰れよ!」
「あーし等もこの近くだから大丈夫」
「なら自分ん家でやれよ!親が心配してるぞ!」
「心配しねーよ。あたし等親から離れてシェアハウスだし」
「一緒に住んでんのかよ!だったら俺の部屋に入り浸ってねぇでとっとと帰れって!」
「んだよ!うっせぇな!東宮義翔のくせに!」
「フルネームで呼ぶな!」
「『東宮』っつぅから東宮グループの息子かと思ったらマジで普通のマンション住んでんのな」
 詩歌の言葉に義翔はギクッとした。
「あ、あたり前だろ!そんなグループとは無縁の貧乏学生だ!」
「どうでもいいけど腹減ったからコンビニいくべ?」

 詩歌や愛羅に強制連行されてコンビニに向かう義翔は、こんな大学生生活を夢見ていた訳ではなかったと遠い目をしていた。

 そのとき詩歌が前方にあるコンビニを指さしながら「あれ、仁と春花じゃね?」と言うので皆の視線がそちらへ向いた。コンビニの灯りに照らし出されているのは手を繋いで歩く仁と春花の姿だった。義翔は仁の姿に身構えた。同時に夜中に春花と手を繋いで歩いていることに嫉妬を覚えていた。
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