第1話
文字数 1,151文字
春の淡い青空の下、東宮義翔は新しく始まる生活に心躍らせていた。
「大学では東宮グループの俺ではなく俺としての俺でいく!」
築8年家賃8万8千円4階1K6帖のこぢんまりとした洋間の窓辺で、伸ばした両手のを太陽にかざして空を仰ぎ見る義翔に、世話係の銀次が黒スーツのポケットに手を突っ込み、キッチン兼廊下から部屋に入ってすぐの壁にもたれた格好で、いつものかったる気な声であきれたように指摘した。
「貧乏人を装うならもっとボロアパートにすべきデショ」
「何を言う。これ以上ランクの低い部屋に住むのはムリだ」
「本当の貧乏学生はこんな部屋には住めないデスよ」
義翔は実家の屋敷の風呂場の脱衣所よりも小さな部屋を見渡した。
「充分貧乏だろ」
銀次は吐息を吐きながら「これだからお坊ちゃんは」とつぶやくと、義翔の隣へと歩を進め、窓の外を指さした。
「真の貧乏人はああいうアパートに住むんデスよ」
銀次の指さす方へ視線を落とした義翔は眉を寄せた。細い道を挟んで建っているそれは誰がどう見ても昭和の産物であり築50年は過ぎている木造2階建ての色あせたアパートだった。
「ムリだろ」
「まぁ、ムリでしょうね。お金持ちの坊ちゃんには」
「嫌みか」眉を寄せる義翔に見向きもせずボロアパートを見つめたままの銀次に、つられるように再びアパートに視線を落とした義翔は「とりあえず地位や金目的のヤツ等が寄って来なければそれでいい」と投げやりに言葉を吐いた。
国内でも指折りの大手企業、東宮グループの跡取り息子である義翔は、多くの金持ちが通う幼稚園から大学までエスカレーター式の私立に通っていた。世間知らずの子どもたちが集まったそこはどこか閉鎖的であり、親の地位や財力の高さへの嫉妬から、あるいは親の地位や財力の低さへの優越からいじめが発生するような場所だった。おかげで地位と財力がトップクラスの義翔は小学生の頃はいじめに遭ったことがあった。中高生時代になるといじめられることは無くなっていたが、それと引き替えに親の地位や財力を目的とした媚びへつらう者たちに囲まれ、気付けば派閥の中心人物にされていた。そんな場所なので心を通わせることの出来る友人など1人も出来なかった。女子に関しては『有望株の妻の座』しか見てない者たちの猛アピールが激しく、義翔は軽く人間不信、女性不信に陥っていた。
「俺自身を見てくれるヤツと友達になりたい。だがそれ以上に俺自身を好きになってくれる子と恋愛がしたいんだ」
「金持ちなのに貧乏人と嘘をついて相手を試すような男なんて地雷臭しかしまセンがね」
何も言い返すことの出来ない義翔はグッと口をつぐみ、いろいろ考えた末にようやく「うるさい」と発すると小声で「駄目な俺も含めて好きになってくれる子だ」と厚かましくも切実な想いを漏らした。
「大学では東宮グループの俺ではなく俺としての俺でいく!」
築8年家賃8万8千円4階1K6帖のこぢんまりとした洋間の窓辺で、伸ばした両手のを太陽にかざして空を仰ぎ見る義翔に、世話係の銀次が黒スーツのポケットに手を突っ込み、キッチン兼廊下から部屋に入ってすぐの壁にもたれた格好で、いつものかったる気な声であきれたように指摘した。
「貧乏人を装うならもっとボロアパートにすべきデショ」
「何を言う。これ以上ランクの低い部屋に住むのはムリだ」
「本当の貧乏学生はこんな部屋には住めないデスよ」
義翔は実家の屋敷の風呂場の脱衣所よりも小さな部屋を見渡した。
「充分貧乏だろ」
銀次は吐息を吐きながら「これだからお坊ちゃんは」とつぶやくと、義翔の隣へと歩を進め、窓の外を指さした。
「真の貧乏人はああいうアパートに住むんデスよ」
銀次の指さす方へ視線を落とした義翔は眉を寄せた。細い道を挟んで建っているそれは誰がどう見ても昭和の産物であり築50年は過ぎている木造2階建ての色あせたアパートだった。
「ムリだろ」
「まぁ、ムリでしょうね。お金持ちの坊ちゃんには」
「嫌みか」眉を寄せる義翔に見向きもせずボロアパートを見つめたままの銀次に、つられるように再びアパートに視線を落とした義翔は「とりあえず地位や金目的のヤツ等が寄って来なければそれでいい」と投げやりに言葉を吐いた。
国内でも指折りの大手企業、東宮グループの跡取り息子である義翔は、多くの金持ちが通う幼稚園から大学までエスカレーター式の私立に通っていた。世間知らずの子どもたちが集まったそこはどこか閉鎖的であり、親の地位や財力の高さへの嫉妬から、あるいは親の地位や財力の低さへの優越からいじめが発生するような場所だった。おかげで地位と財力がトップクラスの義翔は小学生の頃はいじめに遭ったことがあった。中高生時代になるといじめられることは無くなっていたが、それと引き替えに親の地位や財力を目的とした媚びへつらう者たちに囲まれ、気付けば派閥の中心人物にされていた。そんな場所なので心を通わせることの出来る友人など1人も出来なかった。女子に関しては『有望株の妻の座』しか見てない者たちの猛アピールが激しく、義翔は軽く人間不信、女性不信に陥っていた。
「俺自身を見てくれるヤツと友達になりたい。だがそれ以上に俺自身を好きになってくれる子と恋愛がしたいんだ」
「金持ちなのに貧乏人と嘘をついて相手を試すような男なんて地雷臭しかしまセンがね」
何も言い返すことの出来ない義翔はグッと口をつぐみ、いろいろ考えた末にようやく「うるさい」と発すると小声で「駄目な俺も含めて好きになってくれる子だ」と厚かましくも切実な想いを漏らした。