第18話

文字数 725文字

 その後、仁は春花の同情心を利用し、学校から帰ったときに1人の部屋にいるのが寂しいと訴え、毎日会う口実をつくった。平日は夜まで仕事をしている葵の代わりに凛花の面倒をみながら家事をしているという春花を手伝うことで再び羽鳥家に入り浸るようになり、あれこれ会話をする中で春花の恋愛事情を聞き出すことに成功した。恋をしたことがないという春花に胸を撫で下ろした仁は、春花に振り向いてもらえるように努力をし始めた。

 しかし全く振り向く気配が無いまま中学に上がり、しばらくすると男子の間でも恋愛の話が出るようになった。

「2組の羽鳥さんって可愛くね?」
「え?まさかおまえも羽鳥さん好きなの!?
「え?つぅかおまえも?」

 窓際の席に集まる5人の男子たちの会話に聞き耳を立てながら、仁は【またか】とモヤつく感情を抑えた。

「羽鳥さん人気あるねぇ。てか仁、羽鳥さんと仲いいよな?」
 同じく聞き耳を立てていた小林快俐がいつもの軽快な口調で仁に問いかける。それに対して仁は「仲いいよ」と投げやりに答えた。
「好きなら早く告ったほうがいいよ。誰かに取られてからじゃ遅いから」

 仁は快俐に自分の気持ちを話したことなど1度もない。なのに快俐は仁が春花を好きなことをお見通しだった。勘が良く人の気持ちに敏感だが口は堅いのでゴシップを流すようなことはしない。そんな快俐を仁はいつしか信用するようになっていた。

「まだ時期じゃない」
「時期ってなんだよ?」
 問いかける快俐の声を耳にしながら【確実に俺を好きになってからじゃないとリスクが大きすぎる】と心の中でつぶやいた。

 中学に入学してからすでに1年が経とうとしており、感情を取り戻した仁は、それまでとは違うタイプの友人とつるむようになっていた。
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