第8話

文字数 1,782文字

       8

 ユウリは両手持ちした風扇を後ろに引き、力一杯振った。同時に緑の烈風が生じ、悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)を襲う。
 するとぬるりと、悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)から二枚の竜翼が出現。ばさりと一度羽ばたいた。
 黒色の暴風が発生し、ユウリの緑風と衝突した。二つの風はせめぎ合い、やがて消滅した。
「お兄ちゃん! わたし、気づいたの! 悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)が頭や翼を出し入れしてる理由って、きっと弱点だからだよ!」
 傍観するルカから可愛らしい声が飛んできた。ユウリが見やると、竜翼はすっと体内に引っ込んでいくところだった。
「ルカさんの助言、私も的を射ているように思うわ! こいつが身体のどこかを出した時に、最速の攻撃で狙い撃とう! ユウリの技の中で一番早撃ちできる技って何かしら?」
 フィアナの早口な質問が終わらないうちに、悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)はその場で回り始めた。一秒もしないうちに、鱗の模様が視認できないほどの高速になる。
 無数の石つぶてが接地面から飛来する。ユウリは疾駆し、避け続けながら口を開いた。
「雷槌で発射する雷だ! 光の速さだから、威力は低めだけど速度だけはある!」
「わかったわ! それじゃあ私が引きつけるから、身体の部位が飛び出たらユウリは攻撃をお願いね」
「了解! でも悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)は一人で対処できる敵じゃあない! 回避を第一に考えて立ち回ってくれ!」
 ユウリの台詞が終わるやいなや、悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)は回りながら動き始めた。地面を盛大に削りつつ、フィアナへと迫っていく。
 蝶翼をはためかせ、フィアナは飛翔して躱した。空中で反転し、右手に子ユリシスの槍を形作る。
 フィアナは槍を放った。一直線に飛んでいき、回旋を続ける悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)の表面に当たる。
 しかし悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)の動きは止まらない。子ユリシスが霧散し、きらきらとフィアナの翼に戻っていく。
 次の瞬間、悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)の回転半径が大きくなり、身体がふわりと宙に浮いた。
(飛んでる! 翼だ!)看破したユウリはすかさず雷槌を振るった。雷が発生し、ジグザグに空中を進んでいく。
 回転体の先端に当たった。すると悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)は墜落した。転回も次第に勢いを減じ、やがて完全に停止した。
(プラリア)!」ユウリは水盾を出現させると、前方に跳躍した。翼も利用して加速し、地面すれすれを滑るように移動する。
 悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)の間近まで至った。水盾を押しつけ、「水盾波(エスクドレイブ)!」と高らかに叫ぶ。
 瞬時に水盾が波打ち、悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)に伝播した。悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)の身体は一瞬、どくんと振動する。
「ユウリ! 今の技は──」フィアナが早口で訊いてきた。
「特殊な波動を攻撃対象に伝えて、身体の内部を破壊する技だ! こいつが球体の内側に翼、頭を格納してるなら、効果はあるはず──!」
 ユウリの応答が終わらないうちに、四つの頭が球体に生じた。ほぼ同時に口を開き、黒色の火炎を吐き始める。
 瞬時に水盾を前にやった。大半の炎は遮断できた。しかし盾の横から一部が侵入してくる。
「がっ!」右腕に当たり、ユウリは痛みに呻いた。だがどうにか堪えて火炎の射程外へとバックステップしていく。
 竜頭は火炎を吐き止めた。すぐさま黒棘が口腔内に満ち始める。
(来る!)ユウリは危機感を抱いた。だが、ヒュンッ! 風を切る音がして、緑青色の物体が竜頭の一つに当たった。
 悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)が静止した。「助かった!」ユウリはフィアナに礼を言い、さらに退却していく。
 立ち止まったユウリは悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)を見据えた。すでに竜頭はしまわれており、完全な球体に戻っている。
「効いてるよ! 見かけは変わってないけど、わたしにはわかるの! 悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)の邪悪な生命力が、二人の攻撃で弱まっていってる!」
 ルカの力強い声が耳に届いた。ユウリは気を引き締め直し、水盾を構えた。
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