第10話
文字数 1,824文字
10
ユウリたちは他の生徒や大人の護人 たちとともに、ルミラルの左翼へと向かった。宇宙空間での邂逅以来、神蝶エデンは神鳥ルミラルと隣り合って飛んでおり、左翼の先端から行き来が可能となっていた。
エデンの右翼に移って進んでいくと、たびたび傷ついたエデリア人に出会った。エデリアの各都市からの救援依頼役だった。救援部隊は何度か人員を分けた結果、帝都に向かう人数はユウリ、フィアナ、カノンを含めて十人となった。
しばらく行くと、広大な水堀と黒色の城壁が見えてきた。帝都の外周部である。ユウリたちは幅広の橋の上を飛行移動する。しかし。
ザバアッ! 眼下の堀の水面が割れ、巨大な何かが姿を現す。
次の瞬間、ガギィッ! 眼前で金属音がした。短髪の男性護人 が必死の形相で橙色の剣を打ち付けていた。
そのすぐ前では、水色の生物が翼を羽ばたかせていた。大きさは人間とそう変わらず、背中には甲羅がある。額には氷のような角が生えており、短髪の男性の剣とつばぜり合いをしている。
わずかに遅れて、盛大な水音が何度もして、続々と同種の生物が五体出現する。
「な、何よこいつら!悪竜 なの?」フィアナの戸惑いの声を上げる。
「君たちはまだ知らないか! 最近確認された、水生悪竜 だ!」短髪の男性が叫んで、ぐっと体重を前にやった。水生悪竜 の身体を押し返して離し、間髪入れずに斬りかかる。
「こいつらは動きが独特だから、初見の者には任せられない! ここは我々が引き受けるから、君たちは帝都の中に向かってくれ!」女性の護人 が別の一匹とやり合いつつ叫んだ。
「わかりました! では申し訳ないですが、よろしくお願いします! ご武運を!」ユウリはぴしりと言い放ち、飛ぶ速度を上げた。水生悪竜 をやり過ごしたようで、フィアナとカノンも斜め後ろをついて来ている。
帝都の開け放たれた門が迫ってきた。ユウリたちは飛んだまま通り抜け、土の地面に着地した。すると背後で轟音がした。ユウリは振り向いた。背丈の三倍近い堅牢な門が完全に閉じている。
「ふむ、狙い通りだ。ファルヴォスを倒した者と相見えんと策を凝らしてみたが、斯様 に上手くいくものか」
思慮深い雰囲気の男性の声がした。ユウリははっとして振り返る。
帝都の創始者の石像の前に、男が立っていた。年の頃は四十代半ばと見え、襤褸 切れのような焦げ茶の布で全身を覆っている。
黒髪は首にわずかにかかる程度の長さで、額の中央で完全に左右均等に分かれていた。切れ長な目が発する視線は射貫くようであり、太い眉とあいまって精悍な軍人といった雰囲気である。
「何者だ!」ユウリは雷槌を構えつつ、男に鋭く尋ねた。
すると男はあざけるように笑い、胸元に右手を据えた。
「私はリグラム。悪竜 を率いる将にして、悪竜邪装 を極めし者だ。お目にかかれて光栄だ。年若き英雄たちよ」
勿体ぶった調子の口上を終えると、リグラムは小さく会釈した。
「敵! すなわち先手必勝ですっ!」カノンは声を張り上げるとすばやく黒黄刀を引いた。刹那、その姿がぶれて、リグラムへと剣撃が飛ぶ。聖都で見せた居合い切りである。
「無粋だな、幼き剣士よ。戦いの前に余興を準備してあるのだよ。死に急ぐのはそれを見終えてからでも遅くはなかろう」
リグラムは余裕な様子で語った。脇腹の高さに置いた右手は、親指と人差し指でカノンの黒黄刀を捕まえている。
「そんなっ! わたしの最速の技を……!」カノンは焦った様に喚いた。つぶらな目は驚愕に見開かれていた。
「離しなさい!」叫んだフィアナは子ユリシスの槍を生成。小さく振りかぶって投擲し、リグラムを刺し貫かんとする。
リグラムの左手が動いた。易々と槍を捕捉し、反対方向へと放って捨てる。
(こいつ! 速いなんてもんじゃあない!)ユウリは驚嘆する。
「ユウリ! おかしいわ! 門を入ってすぐとはいえ、帝都の人の姿がどこにもないだなんて!」
フィアナの焦ったような調子の台詞が鼓膜を揺らす。
「案ずるな。殺してはいない」リグラムは薄く微笑んだ。カノンは黒黄刀を消して、飛びすさって危険な間合いから逃れた。
「たびたび邪魔が入るが、ここからは計画通り行こう。ユウリ・ヴェルメーレン。今から君にとある場面をお見せする。君が見たくて見たくて堪らないだろう決定的な場面だ。とくとご堪能あれ」
芝居がかった調子の台詞の直後、リグラムの瞳が怪しく光った。するとふうっと、ユウリの視界が白く染まっていった。
ユウリたちは他の生徒や大人の
エデンの右翼に移って進んでいくと、たびたび傷ついたエデリア人に出会った。エデリアの各都市からの救援依頼役だった。救援部隊は何度か人員を分けた結果、帝都に向かう人数はユウリ、フィアナ、カノンを含めて十人となった。
しばらく行くと、広大な水堀と黒色の城壁が見えてきた。帝都の外周部である。ユウリたちは幅広の橋の上を飛行移動する。しかし。
ザバアッ! 眼下の堀の水面が割れ、巨大な何かが姿を現す。
次の瞬間、ガギィッ! 眼前で金属音がした。短髪の男性
そのすぐ前では、水色の生物が翼を羽ばたかせていた。大きさは人間とそう変わらず、背中には甲羅がある。額には氷のような角が生えており、短髪の男性の剣とつばぜり合いをしている。
わずかに遅れて、盛大な水音が何度もして、続々と同種の生物が五体出現する。
「な、何よこいつら!
「君たちはまだ知らないか! 最近確認された、水生
「こいつらは動きが独特だから、初見の者には任せられない! ここは我々が引き受けるから、君たちは帝都の中に向かってくれ!」女性の
「わかりました! では申し訳ないですが、よろしくお願いします! ご武運を!」ユウリはぴしりと言い放ち、飛ぶ速度を上げた。水生
帝都の開け放たれた門が迫ってきた。ユウリたちは飛んだまま通り抜け、土の地面に着地した。すると背後で轟音がした。ユウリは振り向いた。背丈の三倍近い堅牢な門が完全に閉じている。
「ふむ、狙い通りだ。ファルヴォスを倒した者と相見えんと策を凝らしてみたが、
思慮深い雰囲気の男性の声がした。ユウリははっとして振り返る。
帝都の創始者の石像の前に、男が立っていた。年の頃は四十代半ばと見え、
黒髪は首にわずかにかかる程度の長さで、額の中央で完全に左右均等に分かれていた。切れ長な目が発する視線は射貫くようであり、太い眉とあいまって精悍な軍人といった雰囲気である。
「何者だ!」ユウリは雷槌を構えつつ、男に鋭く尋ねた。
すると男はあざけるように笑い、胸元に右手を据えた。
「私はリグラム。
勿体ぶった調子の口上を終えると、リグラムは小さく会釈した。
「敵! すなわち先手必勝ですっ!」カノンは声を張り上げるとすばやく黒黄刀を引いた。刹那、その姿がぶれて、リグラムへと剣撃が飛ぶ。聖都で見せた居合い切りである。
「無粋だな、幼き剣士よ。戦いの前に余興を準備してあるのだよ。死に急ぐのはそれを見終えてからでも遅くはなかろう」
リグラムは余裕な様子で語った。脇腹の高さに置いた右手は、親指と人差し指でカノンの黒黄刀を捕まえている。
「そんなっ! わたしの最速の技を……!」カノンは焦った様に喚いた。つぶらな目は驚愕に見開かれていた。
「離しなさい!」叫んだフィアナは子ユリシスの槍を生成。小さく振りかぶって投擲し、リグラムを刺し貫かんとする。
リグラムの左手が動いた。易々と槍を捕捉し、反対方向へと放って捨てる。
(こいつ! 速いなんてもんじゃあない!)ユウリは驚嘆する。
「ユウリ! おかしいわ! 門を入ってすぐとはいえ、帝都の人の姿がどこにもないだなんて!」
フィアナの焦ったような調子の台詞が鼓膜を揺らす。
「案ずるな。殺してはいない」リグラムは薄く微笑んだ。カノンは黒黄刀を消して、飛びすさって危険な間合いから逃れた。
「たびたび邪魔が入るが、ここからは計画通り行こう。ユウリ・ヴェルメーレン。今から君にとある場面をお見せする。君が見たくて見たくて堪らないだろう決定的な場面だ。とくとご堪能あれ」
芝居がかった調子の台詞の直後、リグラムの瞳が怪しく光った。するとふうっと、ユウリの視界が白く染まっていった。