第7話

文字数 1,258文字

       7

「だ、誰か助けて! も、もうあたし……」幼い女の子の泣きそうな声がした。ユウリは目だけを動かして声の主を見る。
 おかっぱ頭の十二歳ぐらいの女子だった。ユウリの前腕ほどの長さの剣を二つ持っている。器用な足捌きをしながら両手の剣を交互に振り、悪竜(ヴァルゴン)の前足、牙、尻尾の連撃を弾き返している。だがもうふらふらで、三十秒と持ちこたえられそうになかった。
「フィアナ! あの子を頼む!」ユウリはぴしゃりと言い放った。
「でもユウリ! あなたも力を取り戻したばかりで、安心できる状況じゃあ──」
「大丈夫だ! 行ってくれ! こいつは俺が倒す!」
 心配そうな声音のフィアナに、ユウリは高らかに宣言した。一瞬迷ったフィアナだったが、決意を固めた顔になった。ユウリに小さく頷いて、おかっぱ少女の元に駆けていく。
 ユウリはふうっと息を吐き、眼前の尾長悪竜(ヴァルゴン)に向ける注意を高めた。
 尾長悪竜(ヴァルゴン)の瞳が怪しく光った。すると尻尾が瞬時に黒色透明の何かを帯びて、ジリジリと音がし始めた。
(こいつ! 黒炎を尻尾に纏って──)ユウリが驚いていると、尾長悪竜(ヴァルゴン)はふわりと飛翔。ややぐらつくもユウリに接近し、翼を使って縦に回転した。
 ブンッ! 空気を切る音とともに尻尾が真上から迫る。ユウリはとっさに側転。どうにか回避に成功し、直立姿勢に復帰した。
 尻尾が叩きつけられた地面に目をやる。芝生が燃えていた。ユウリは「(ヴェリデス)」水盾を左手に持ち替えて、風扇を右手に構えた。
 斜め下から振り上げた。緑色の風が吹き荒れ、尾長悪竜(ヴァルゴン)に当たった。わずかに動きが止まる間に、芝生の炎を風で吹き散す。
 ユウリは走り出した。尾長悪竜(ヴァルゴン)は硬直から回復。わずかに首を後傾させて勢いよく戻した。
 口からの火球が轟音を立てて迫る。ユウリは水盾を掲げた。火球が当たりジュウッ! と音がする。水盾は厚みを減らす一方で、火球は完全に消滅した。
雀扇風(ミラクラファル)!」叫んだユウリは風扇をぶん回す。風扇は煌々と輝き始め、無数の羽根が放たれる。
 地を蹴った尾長悪竜(ヴァルゴン)は左に跳躍。しかし躱しきれず、羽根が右翼の先端を掠める。
 右翼に二つ、穴が開いた。尾長悪竜(ヴァルゴン)は苦しげに鳴いた。
 ユウリ、地面を蹴って加速。水盾で身体を覆いつつ敵との距離を詰めていく。
 尾長悪竜(ヴァルゴン)は右腕を振り下ろす。ユウリは急停止。鋭い爪をすれすれで回避し、再び突進していく。
 膝下にぶち当たる瞬間、「水盾波(エスクドレイブ)!」と詠唱。水盾に波紋が発生し、敵の身体へと伝播していく。
 ブシュッ! 内部破壊技の影響か、膝付近に幾筋もの裂け目が入った。どくどくと傷口から血が流れ始める。
 尾長悪竜(ヴァルゴン)、苛立たしげに足を蹴り上げた。読んでいたユウリ、翼をはためかせて後ろへ飛翔。悠々と致命の蹴撃を避けきった。
 すたりと着地し、ユウリは尾長悪竜(ヴァルゴン)を注視した。たびたびの痛打による疲弊の色が見受けられる。
(ちょっとぐらい普通の奴と違ってたって、俺にかかればこんなもんだ! 来いよ巨大トカゲ! 完膚なきまでに叩きのめしてやる!)
 心中で勇ましく吠えて、「(キラーヴォ)」ユウリは風扇を雷槌に切替えた。
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