第10話

文字数 1,341文字

       10

(初めてね。ケイジ先生が私と二人きりで会いたいだなんて仰るのは。何だか胸騒ぎがするわね)
 フィアナはかすかに不安を覚えつつ、聖都の道を行っていた。すでに夜の帳が下りており、ほうほうと梟の鳴き声がしている。
 町外れまで至り、フィアナは前方に目を向けた。緩やかな傾斜のついた地面に、丈の低い草が生えていた。フィアナは再び歩き出し、丘を登っていく。
 頂上まで辿り着きなんとなく振り返る。遠くに点在する家々から微かな灯りが漏れてきており、静かな夜の風情を強く感じさせた。
 背後で気配がした。フィアナは向き直った。ケイジの姿があった。
「先生! 何かあったんですか?」フィアナははっきりと問うた。
 するとケイジの口角が上がった。(? なんか不気味な笑顔──)フィアナが訝しんだ瞬間、ケイジの顔が崩れた(・・・)
「KYEEEEEE!」耳をつんざくような奇声が響いたかと思うと、ケイジから分離した何かが飛んできた。
 フィアナはとっさに身体を沈めた。だが、チッ! 右頬に掠り、鋭い痛みが生じる。
(I)崇む(W)神の蝶(L)唯一(M)至高(S)創造主(C)
 起き上がる動きとともに、フィアナは詠唱を始めた。その間も攻撃は止まず、全方位から飛来する物体を必死で避け続ける。
悪竜(ヴァルゴン! それもユウリと会った時と同じ小型の! いったい先生に何があったっていうのよ?)
 フィアナが戦慄していると、一体が真上から降下してきた。首を引いて躱し、詠唱を継続する。
(I)神蝶(L)加護(G)受け()原初(S)(E)討滅せん()神蝶聖装(セクレドフルトゥール)!」
 高らかに叫び、フィアナは緑青色の蝶、ユリシスの翼を出現させた。翼を構成するのは微細な子ユリシスであり、フィアナの力は入れ子構造を為していた。
 すぐさまフィアナは精神統一した。すると子ユリシスの間で、白色の球体が行き来し始めた。神蝶聖装(セクレドフルトゥール)及び神鳥聖装(セクレドフォルゲル)の力の源である神気(ルークス)である。
 前方から四体の悪竜(ヴァルゴン)が飛んで来た。フィアナは右手を振るい、神気(ルークス)を放って迎撃する。ユウリとの交戦時にも用いた鏡蝶弾(ミラルガン)だった。
 四体は瞬時に縦一列になった。前の三体は鏡蝶弾(ミラルガン)で身体に穴が開き落下する。しかし、仲間の犠牲で無傷の一体が叫びながら襲ってくる。
(味方と連携して全滅を免れて──。こいつら、見かけ以上に知能が高い!)
 焦燥を深めるフィアナにかまわず、小型悪竜(ヴァルゴン)は迫り来る。フィアナは翼から子ユリシスを分離した。槍の形を作り、右手に握り込む。
 悪竜(ヴァルゴン)が右手を薙いだ。フィアナはしゃがんで回避。立ち上がる勢いを利用して、子ユリシスの槍を突き上げる。
 ざくり。肉を貫く感触があった。腹を刺された悪竜(ヴァルゴン)は小さく鳴き、脱力して墜落した。
 フィアナはすばやく前を向いた。何十体もの小型悪竜(ヴァルゴン)が、羽ばたきながらこちらを睨んでいた。ケイジの姿はどこにもなかった。
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