第7話

文字数 1,498文字

       7

 詠唱を済ませた二人は、悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)と対峙した。
(初っぱなから全力だ!)決心したユウリは、「雷槌旋(グラザステッラ)!」と言い放ち、雷槌を雷に変化させた。持った右腕を思いっきり引き、横投げで投擲する。
 バチ、ビリリと音を立てつつ、雷は円弧軌道で飛んでいく。
 刹那、悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)の姿が小さくなった。(なっ──)ユウリは絶句する。半分ほどの大きさとなった悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)のわずか上を雷は通過する。
 フィアナが槍を片手に駆け出した。戻ってきた雷をキャッチし、今度はユウリは両手で頭上から放った。点ではなく線で捉える軌道である。
 悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)が跳ねた。フィアナの突きは空を切り、一瞬後にユウリの雷も通過する。
「フィアナ上だ!」ユウリは必死に叫んだ。フィアナが即座に顔を上げる。
 五ミルトほどの高度に達し、悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)は元の大きさに戻った。すると、にゅるり。円の直交方向に四つ、何かが飛び出した。悪竜(ヴァルゴン)の頭だった。ユウリとフィアナを瞳のない眼で睨んでいる。
 四つの竜頭は口を開いた。するとその周囲に黒い渦が生じた。一秒も経たずに渦は収まり、口内に刺が無数に発生する。
「来るわよ!」フィアナが叫んだ。次の瞬間、竜頭は黒棘を発射した。
(水盾に切替えてたら間に合わない!)即断したユウリは、雷を雷槌に戻した。一気に集中を最大に引き上げ、黒棘の軌道を見極める。
 ユウリは雷槌を振るった。緻密な槌捌きで黒棘に次々と命中させ、身体への到達を免れ続ける。
 黒棘が止んだ。フィアナを見た。子ユリシスの盾で防いだ様子で、身体に損傷は見られなかった。
 竜頭が引っ込み、悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)が一瞬にして倍ほどにまで巨大化した。重力に惹かれて落下を始める。真下にいたユウリは、慌てて走り始めた。
 前方に跳んだ。前回りの要領で転がった。すぐ後ろでズウンと音がした。体勢を整えたユウリは起立し、振り返る。
鏡蝶弾(ミラルガン)!」敵を挟んだ向かいにいるフィアナが詠唱した。背中の翼から球体が放たれる。
 悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)はわずかに回転した。神気(ルークス)の弾丸は、次々と表皮に吸い込まれていった。
 斉射が止んだ。ユウリは敵の様子を注視し、目を瞠る。竜鱗には傷一つなく、依然として不気味に脈動し続けている。
「そんな、まったくのノーダメージだなんて……。今の私の最高火力の技を狭い範囲に集中させたのよ?」
 呆然とした様のフィアナの口から言葉が漏れた。
「シャウア! こいつについて何か知ってたら教えてくれ!」ユウリは敵に注意を向けつつ、シャウアに大声で尋ねた。
「悪いなユウリ! 詳しくは知らねえんだよ! 悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)について伝承が語るのは、エル・クリスタ軍が多大な犠牲を払ってようやく討伐に成功したって事実だけだ! 勝機はあるはずだ! 頑張って探せ! 俺も何か気づいたら教えんぜ!」
 メイサの後ろに位置するシャウアが、両手を口元に当てて喚いた。「了解!」と短く応じ、ユウリはフィアナに視線を移した。
「フィアナ! 敵の力が未知数過ぎる! しばらくは遠距離攻撃中心で行って、悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)の特性を把握していこう!」
 ユウリが声を張り上げると、「わかった!」と、フィアナから良く通る声で返事が来た。
(ヴェリデス)」ユウリは静かに呟き、風扇を手にした。
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