第6話

文字数 1,267文字

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 ユウリは目を開けた。目の前にフィアナの顔があった。気遣わしげに眉を顰めていたが、ユウリの覚醒に気づいてぱっと表情を明るくする。
「ユウリ! 気づいたのね! 良かった! 急に出現した悪竜(ヴァルゴン)に前足で殴られたって聞いて、一時はどうなることかと思ったわ」
 フィアナの口振りには心からの安堵が感じられた。
「そうだ! あの悪竜(ヴァルゴン)はどうなったんだ?」ユウリは周りを見渡し、目を瞠った。あらゆる所に悪竜(ヴァルゴン)がいた。士官学校の生徒や先生と戦いを繰り広げている。
「な、なんだよこれ! 一匹だけじゃないのか? どこもかしこも悪竜(ヴァルゴン)だらけで……。どうなってるんだよ!」
 ユウリがまくし立てると、フィアナは唇を強く結び厳しい表情になった。
「ユウリが昏倒してすぐ、近くにいたカノンがユウリを襲った奴を斬り伏せた。それで終わったと思ったんだけど、次々と黒の渦巻きが発生して、そこから悪竜(ヴァルゴン)が出てきたの。で、こうしてみんなで戦ってるってわけ」
 フィアナは淀みなく状況を述べた。
「戦況はどうなんだ? ファルヴォスみたいな人型の奴はいないのか?」ユウリは続けて質問を投げかける。
「人型悪竜(ヴァルゴン)の姿はない。それに加えて通常の悪竜(ヴァルゴン)も、どういうわけか動きが鈍いの。具体的に言うと、飛行がいつもと違って微妙に安定してないのよ。だから、そこまで劣勢を強いられて──」
 説明を続けるフィアナの背後に黒色球体が発生。みるみるうちに大きさを増していく。
「フィアナ、後ろだ!」叫んだユウリはフィアナを突き飛ばした。フィアナは転びそうになりつつも、足を器用に動かして持ち直す。
 次の瞬間、フィアナのいた位置を漆黒の火球が通過した。ユウリの肌に熱感が生じる。
 火球は校舎に激突した。ボゴウ! 大きな音がして、レンガの一部が剥がれ落ちる。
 ユウリはフィアナを攻撃した悪竜(ヴァルゴン)に向き直った。一見、ただの一般的な悪竜(ヴァルゴン)だが、目を引くのは身体の後ろのものだった。
 通常の悪竜(ヴァルゴン)の尾は、成人男性の身長ほどの長さである。だがその悪竜(ヴァルゴン)の尾は、細いがとにかく長かった。ユウリの背丈の倍はあるように見える。
「気をつけて! この悪竜(ヴァルゴン)、尻尾が他の奴と違うわ!」フィアナが危機感たっぷりに叫んだ。
 ユウリは精神を集中し、「(I)崇む(W)神の鳥(Y)」静かな声で唱え始める。
「詠唱を……。でもユウリ。あなた今、神鳥聖装(セクレドフォルゲル)が使えないんじゃあ……」
 フィアナが不安げに呟くや否や、尾長悪竜(ヴァルゴン)は身体を回転。長大な尻尾を振り回す。
 ユウリはバックステップ。射程の外へと逃れて躱した。近くではフィアナが、子ユリシスで作った障壁で尾を受け止めている。
(いや、使える。俺は、戦える! 戦って勝って、ルカが愛したルミラリアを守るんだ!)
 心中で吠えながら、ユウリは詠唱を進める。尾長悪竜(ヴァルゴン)が右腕を振るった。鋭い爪がユウリの腹部へと迫る。
 ほぼ同時、「神鳥聖装(セクレドフォルゲル)! (プラリア)!」詠唱を完遂したユウリの手に、水盾が出現。尾長悪竜(ヴァルゴン)の一撃を受け止めた。
「ユウリ! あなた力が──」フィアナの弾んだ声がした。ユウリは微笑で返答しつつ、長大な尾を引いていく尾長悪竜(ヴァルゴン)を睨み続けた。
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