第1話

文字数 833文字

       1

 フィアナとシャウアが去った直後には、カノンが一人で見舞いに来た。ルカの死を悔やむ言葉を静かに告げてから、ファルヴォス襲撃事件による被害について語った。
 ファルヴォスの猛攻により重軽傷者は多数出たが、犠牲者は一人もいなかった。ルカの誤射による事故死を除いては。また一国の次代の最高指導者が死ぬ羽目になった今回の一件は、政治問題になるだろうという予測も告げられた。
 ユウリは一切返事をせずに聞いていた。だがカノンはユウリを咎めはせず、優しい口調で淡々と喋り続けた。
 話が終わり、「ではわたしはこれで」と、カノンはほのかに微笑んで病室を去っていった。普段ははちゃめちゃなカノンの気遣いは意外だったが、もうどうでも良かった。ルカは死に、二度とあの眩しく愛の籠もった笑顔を見ることは叶わない。ユウリにはそれがすべてだった。
 翌日も、フィアナとシャウアは来た。初日同様、シャウアは真摯な謝罪を見せるのだが、ユウリは何を言われても「ああ」「わかった」「もういいって」と生返事しかしなかった。フィアナはもの言いたげな視線を向けてくるが、やがて面会時間が終わり二人は帰っていった。
 病室に再び静寂が訪れた。ユウリは窓の外を眺めつつ、小型悪竜(ヴァルゴン)の自爆で入院した際の出来事を思い出す。
(お仕事は確かに辛い時もあります。でもわたしは大丈夫、へっちゃらなんです! なんてったってわたしには、優しくて強くて頼りになって優しい、大大大好きな兄がいるんですもの!)
 あの時ルカは、ユウリの腕を取りつつまっすぐな瞳で力説したのだった。あまりにも鮮明に思い出し、ユウリの目に涙が生まれる。
(愛しい、愛しいよお兄ちゃん。わたし、お兄ちゃんの妹じゃなかったらなぁ。結婚、できたのに、ね)
 今度は悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)戦の後の台詞だった。堪えきれず、ユウリはばたりとベッドに倒れ込んだ。とにかく何もかも忘れて眠りたかった。だが脳裏に浮かぶは愛しいルカとの思い出ばかりで、ユウリはその日、一睡もできなかった。
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