第11話

文字数 1,194文字

       11

「……う、うん」地面に横たわったルカの口から小声が漏れた。
「ルカっ!」座位のユウリは思わず大声を出す。すぐ近くにはメイサ、シャウア、フィアナがおり、皆、注意深くルカを見つめていた。
 ルカが目を開けた。「ここ……は──」可愛らしい声で呟き、さかんに目をパチクリさせる。
神古の木箱(ディーアス・スタニュメント)の世界の中だ。悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)に大怪我を負わされた俺たちを助けようとして、神鳥癒掌(ルミラル・クーアル)を使って──ルカは……倒れたんだ」
 いたたまれない気持ちゆえ言葉は次第に尻すぼみになり、ユウリはばっと頭を下げた。
「ごめん、ルカ! 護人(ディフェンシア)として成長したいとか大口を叩いた挙げ句、ズタボロにされて。そんでルカに辛い思いをさせて、気絶までさせて。くそっ、なっさけねえ! 自分の未熟さに反吐が出る!」
 ぼろぼろと、ユウリは目からとめどなく涙が零れる。「ごめんなさい」と、隣のフィアナも沈んだ調子で謝った。
 申し訳なさのあまりユウリは顔を上げられない。「お兄ちゃん、フィアナさん。良いから頭を上げなさい」怒ったような語調の声が掛かり、ユウリはゆっくりと姿勢を戻した。正座姿勢のルカが目の前にいた。小さな顔はむっとしており、愛らしい大きな瞳には今は厳しい趣がある。しかし。
 ふっとルカは相好を崩した。「……ルカ?」呆気に取られたユウリはぽつりと呟く。
 するとルカが迫ってきた。ユウリの胸部にルカの薄い胸が当たり、背中に柔らかい手の感触が生まれる。
「謝る必要なんてぜーんぜんないよ。二人とも身体を張って命を張って、わたしを怖い竜から守ってくれた。だからわたしも二人を助けた。誰にも強制されたわけじゃあない。助けたかったから助けた。ただそれだけ。それだけなんだよ?」
 穏やかな、優しい、愛を込めた調子で、ルカは悠然と言葉を紡いだ。ルカに抱きしめられたユウリの胸は、じんわりと暖かいもので満ちていく。
「愛しい、愛しいよお兄ちゃん。わたし、お兄ちゃんの妹じゃなかったらなぁ。結婚、できたのに、ね」
(ルカっ!)ユウリは涙が止まらない。ルカの想いはあまりにも尊く、重く、清らかで純粋だった。
 やがてルカはユウリから身体を離し、にこりと朗らかに笑った。
「よしっ! それでは麗しき兄妹愛の一幕はこの辺で終了! 皆々様、お待たせしました!」
 歌うように言うと、ルカはすくりと立ち上がった。ユウリたちも続いて起立する。
「この時代の戦士たちは、ユウリたちが悪竜真球(ヴァルゴン・スフェイラ)と戦っている間に門から侵入を果たしている。私たちも続こう。難敵を下して喜ばしいのは理解できるが、当初の目的を忘れちゃあ何が何だかわからん」
 メイサが静かに釘を刺した。ユウリたちは顔を見合わせ、ほぼ同時に歩き始めた。
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