第11話

文字数 726文字

       11

(何だここは。見覚えがある道だけど……聖都の、病院の近くか?)
 ユウリはぼんやりと思考した。意識こそ鮮明だが身体が存在せず、視覚と聴覚のみが機能している状況だった。時間は夕方と見え、空は青色と薄黄色のグラデーションである。
 しばらくして、視界の先のレンガの道に一人の人物が姿を現した。ユウリは目を見開いた。ルカだった。祭服を着ており、可愛らしく鼻歌を歌いつつ歩いている。
 するとふうっと、ルカの斜め上に黒色透明の物体が出現。徐々に透明度を減じていき、完全に実体化した。
「なに、あれ……」ルカが不思議そうに呟く一方で、ユウリは絶句する。あまりにも見覚えのある黒の蝶だった。
黒神蝶の断罪(エデン・カノゥネ)っ! ってことはこれは、ルカの死に際の──)
 ユウリが思考を巡らしていると、黒神蝶がぴたりと静止した。次の瞬間、蝶の頭から黒い光が打ち上げられた。ぐんぐんと高度を上げ、やがて下降を始める。
(ルカっ! 逃げろ!)ユウリは念じるが、ルカは完全に動きが止まっていた。黒神蝶の断罪(エデン・カノゥネ)の付加効果を受けているのだ。そして、その瞬間は訪れる。
 黒い光が落ちてきた。微動だにできないルカに直撃。身体はびくんと跳ね、口が大きく開かれる。
(やめろっ! やめてくれっ!)ユウリは懇願した。頭がおかしくなりそうだった。しかし黒い光はルカをすっぽりと覆い続け、地獄の苦しみは終わらない。
 永遠とも思える数秒が過ぎ、光が消えた。ルカはどさりと、衝撃により生じたくぼみへ身体を横たえた。涙に濡れた瞳は、苦痛と悲しみを湛えている。
「……痛い。痛いよ。……どうして、わたし。助けて、おにい、ちゃ──」
 ルカはか細い声で囁き、瞼を閉じ、動かなくなった。ユウリの視界が再び白に塗り潰される。
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