第14話

文字数 2,176文字

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雀扇風(ミラクラファル)!」叫んだユウリは風扇を叩きつけた。何百本もの緑色の羽が、雪崩のごとくリグラムに押し寄せる。
 わずかに遅れて「鏡蝶弾(ミラルガン)!」フィアナが唱えた。何百もの白球が不規則軌道で飛んで行く。
 リグラムは長大な翼を前方に展開。二方向からの一斉射撃を翼表面で受けた。フィアナの弾幕も、器用に左翼を動かして完封する。
 ひらり。黄色の小物体が翼の間を通り抜けた。カノンである。人間に戻ると「唐竹割りっ!」元気に叫んで両手持ちの黒黄刀を天地方向に振り下ろす。
 リグラムは左手で反応。籠手で唐竹割りを受けきると、間髪入れずに右手を振るった。
 カノンの姿が消えた。否、キビタキに変身したのだ。竜閃爪が空を切り、キビタキ・カノンは背後へと回り込む。
「背中ががらがらのがら空きです!」カノンは人型になり切り上げを敢行。リグラムの腰に当たり、黒黄刀が体内へと入っていく。
「ぐっ!」リグラムが呻いた。左手で黒黄刀を押しとどめると、刀を経由させて黒炎をカノンへと送る。
 カノンはリグラムの尻を蹴り、反作用でリグラムから距離を取った。再度キビタキになり危険な間合いから退いていく。
 フィアナが二本のトライデントを形成。両手で一本ずつ持ち、同時にぶん投げた。
 いずれもリグラムの翼の障壁を抜けた。カノンの猛攻で、翼の制御が甘くなっていた。
 しかしリグラム、竜閃爪を閃かせて二本とも防いだ。隙を突くべくユウリが滑空。雷槌片手に追撃を加えんとする。しかし。
摂理(エデン)の真性は聖にして貴。されど神敵、暴悪なれば、邪に染まりても其を滅す。出でよ、黒神蝶!」
 少年の真剣な声が響き渡った。(黒神蝶の断罪(エデン・カノゥネ)!)ユウリが戦慄していると、透き通った黒色の巨蝶が一羽出現。頭部から漆黒の光線が打ち上がる。
 数秒ののちに光が一点で止まった。やがて折り返し始め、どんどん高度を下げていく。
 動けないリグラムはかっと目を見開いた。刹那、黒神蝶の断罪(エデン・カノゥネ)が命中。黒の光がリグラムを包み、全身に衝撃をまき散らす。
 光が止み、リグラムの姿が鮮明化した。衣服はずたずたになっており、中から覗く身体にも青痣があちこちに見られた。
 ユウリは高速飛行しつつ「(プラリア)!」風扇の代わりに水盾を手に取り、リグラムへと迫る。
 リグラムが右手を薙いだ。ユウリは水盾を微動させて受けた。超至近距離まで至り、「水盾波(エスクドレイブ)!」水盾を押しつけて叫んだ。
 水盾は眩く輝くと同時、大きく脈打った。波動がリグラムに伝播し、ブシュッ! 内部破壊を受けたリグラムの全身から黒い血が噴出する。
 とどめを刺すべく雷槌をぶち込む。しかしリグラムはバサリと竜翼を羽ばたいた。ユウリの打撃は空振りし、リグラムは遠くの地面に着陸した。
「よぉし! 狙い通りだ! ユウリもナイス追撃だぜ! これで奴もあの世行き確定だ!」
 貪欲さを感じる大声がした。ユウリは視線を向けた。シャウアだった。ユウリたちから少し離れた建物の陰にいる。はにかみながら、握り込んだ右手をユウリに掲げている。
「シャウア! お前また黒神蝶の断罪(エデン・カノゥネ)を! 誤射は大丈夫なのかよ!」
「心配いらねえよ! あの後、メイサ先生の助言を得て改良版を編み出したんだ! 呼び出せる数は一羽だけだが、無翼(フリューグナ)の俺でも一人で唱えられて誤射の可能性もゼロ! どうだよ! 素晴らし過ぎて言葉も出ねえだろ!」
 自信たっぷりにシャウアは叫んだ。ユウリは納得し、リグラムに視線を戻した。完全に膝を突いて俯き、苦しげに呼吸をしている。
「は、かはっ──! ふ、巫山戯(ふざけ)た真似を」苛立った口調でリグラムが言った。
「魔王リグラムっ! あなたはわたしたち英雄カルテットに討たれる運命なのです! いざ神妙にその邪悪な命を散らすのです!」
 黒黄刀をリグラムに向けつつ、カノンが可愛らしい声で言葉を叩きつけた。
「──ほう、愉快な冗談もあったものだな。この程度で私を斃したつもりか」
 リグラムは地の底から響くような声を出した。(何だと?)ユウリが訝しんでいると、リグラムの瞳が怪しく光った。
「真なる神メヴィア。(しもべ)たる我に、神敵を誅す力を授けられたし」
 厳かに唱えて、リグラムは目を閉じた。するとリグラムの身体はどろりと溶け始めた。
(いったい何が──)混乱するユウリをよそにリグラムの変形は進む。やがて完全な黒球になると、むくむくとあちこちが突き出てき始めた。
 リグラムの身体が徐々に形成されていく。ユウリは雷槌を振って雷を飛ばすが、体表面の寸前で消滅した。カノン、フィアナも攻撃を仕掛けるが、まったくの無駄だった。
 諦めた三人は、離れた位置からリグラムを見続ける。リグラムは今や翼のない竜のようなフォルムだった。ただ色はグラデーション皆無な漆黒で、身体のラインはすべて完全な曲線だった。体長はユウリの背丈よりやや長い程度。のっぺりとした雰囲気の奇妙な竜である。
 頭部がぐねぐねと怪しく蠢いた。一秒もせずに正三角錐が形成される。
 リグラムの動きがぴたりと止まった。次の瞬間、頭部の三角錐に白い箇所が生じた。細長い三角形二つと、その下に一直線に走る線。眼と口のようにユウリには思えた。
「待たせたな。それでは始めようか」口をわずかに動かしつつ、リグラムはゆっくりと告げた。
 ユウリはすっと身構えた。近くではカノンとフィアナも、リグラムに油断のない視線を向けている。
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