サイキョウさんとリリムちゃん、最後の騒動を終わらせる 3

文字数 1,049文字

 リリムちゃんは思ったことを口にはしませんでしたが、表情を取り繕うところまで気が回らなかったようで。

 何か言ってやりたいと思っているけどそれを我慢していることが簡単にわかる――何とも言えない表情でサイキョウさんを見つめていました。

 サイキョウさんはそんなリリムちゃんの顔を見て、いやなものを見たという表情を浮かべてから言います。
 ……ちいひめちゃんよ。

 何か言いたいことがあるんだったら、言ってしまった方が楽だぞ。

 別に言いたい事なんてありませーんよー、だ。
 ……とてもそうとは思えない表情を浮かべてるんだが。

 自覚はないのか?

 ――え゛っ!?
 サイキョウさんの指摘に、リリムちゃんはカエルが潰されたような声を出して驚いた後で、自分の顔をぺたぺたと触ります。

 とは言え、鏡もない状況で自分がどんな表情を浮かべているかなど、触ったところで確認しようがありません。

 しばらく手を動かし続けてから、それが不毛な行動であると理解したリリムちゃんは、咳払いをひとつ挟んでから言います。
 ……べ、別にそんな顔をしていたつもりはないけれど。

 ただ、そうね。

 そう、もし本当にあなたからそう見えていたとすればだけどね?

 それは、言いたいことがあるんじゃなくて、教えて欲しいことがあるからよ、たぶん。

 へぇ、そうかい。

 じゃあその内容を言ってみたらどうだ?

 答えられない質問でなければ答えてやるぞ。

 ――え゛、えっとー……。
 サイキョウさんにそんなことを言われて、リリムちゃんは再び濁った驚きの声をあげました。

 それはそうです。だって、今のリリムちゃんには聞きたいことがあるのではなく、言いたいことがあるだけだったのですから。

 口からでまかせで切り抜けられない場面もあるものです。

 リリムちゃんはしばらく何を言おうか迷うように黙り込んでいましたが――やがて何か思いついたのか、そのことに満足していることがわかる嬉々とした表情を浮かべながら口を開きました。
 ――こ、これからどうするのっ?
 散々時間をかけて出てきた言葉がそれだったことに、サイキョウさんはげんなりしたような表情を浮かべて、
 ……あのなぁ、ちいひめちゃんよ。

 いくらなんでも、その程度のことを言うのに時間を――

 そんな風に言葉を続けようとしたのですが、それを止めるように割って入る声がありました。
 おまえら、何を悠長に会話してんだ!

 状況理解してんのか!?

 それは、絶賛放置されている刺客が目の前にしている状況に耐え切れずに思わずあげてしまった声でした。
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登場人物紹介

サイキョウさん。主人公。

得意なこと:体を使うこと全般
苦手なこと:異性や子どもとのコミュニケーション

一般的な常識を理解した上で、暴力という解決方法を採ることが多かったりする人。悪人でも善人でもない、俺ルールの行使者。

リリムちゃん。小さい姫さん。略してちいひめちゃん。
得意なこと:虚勢を張ること
苦手なこと:体を使うこと

トラブルメーカーそのいち。
遊興すれば襲われる、街を歩けば攫われるといいことなし。
サイキョウさんの理不尽な扱いにもそろそろ慣れてきた。

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