サイキョウさんとリリムちゃん、次の町に出発する
文字数 2,779文字
いきなり面倒事を引き起こしてしまったリリムちゃんでしたが、その翌日以降、出発の時間までの間に、再び騒ぎを引き起こすことも、ごたごたに巻き込まれることもありませんでした。
なぜトラブルが起きなかったのか。
単純な話です。
一人で行動したから面倒事を引き起こしたと学んだリリムちゃんが、素直にサイキョウさんに同行をお願いすることにしたからでした。
あまりにも素直に頭を下げてお願いをしてきたリリムちゃんに、サイキョウさんは本当に驚いたような様子で閉口した後で、かろうじてそう答えるだけだったそうです。
そんなこんなで出発日当日。
準備をしっかりと終わらせたリリムちゃんとサイキョウさんの二人は、予定していた定期便に乗りこみました。
二人が予約していた席に座り、他の客も乗り込んできて席がほぼ埋まってから、定期便は動き出します。
定期便に揺られながら、サイキョウさんは隣に大人しく座っているリリムちゃんをちらっと見た後で、視線を床に落としてから内心で吐息を吐きます。
サイキョウさんがそんなことを考えていると、横に座っているリリムちゃんが視線を向けてきて、口を開きます。
リリムちゃんから何か話し始めるときは、だいたいこの言葉から始まります。
サイキョウさんはため息をひとつ吐いてから、自分の膝に頬杖をついて視線をリリムちゃんに合わせて言います。
リリムちゃんはそう言って半目でサイキョウさんを見た後で、まぁいいわ、と視線を外してから続けます。
……貧民街ってのは、言い換えれば今の社会の最底辺だ。
そこから這い出るためには手段を選ぶ余裕もない。
だから、ああなる。
ただまぁ、一部の、例えば、ちいひめちゃんに見える範囲からあの惨状を消したいというのであれば手段はあるだろうさ。
……この辺は俺も他人の受け売りなんだがな。
人間の作る社会には、階層が絶対に出来る。豊かさの上下関係だ。
だがまぁ、社会全体が今よりも豊かで便利になれば、そのときの最底辺はあれじゃなくなる可能性はある。
例えば、そのときの最底辺が今の庶民と同程度であれば、人売りに手を出してまで金が欲しいと思う人間は減るんじゃないのかね。
そういう話ってのがどういう意味かはわからんが。俺がしたのは、本気でやりたいならやれる手段はいくらでもあるぞ、という話だぜ。
今時、王族を打倒して国を奪おうと思う連中なんていくらでもいる。
どこぞの国でクーデターが起きた、なんてのはつい最近聞いた話だろう?
サイキョウさんの言葉に、リリムちゃんは思わず唸ってから黙ります。
サイキョウさんはリリムちゃんが唸って黙ったことに笑ってから、続けます。
ま、余裕ができた人間が増えるってことは、弁えずに要望を出す人間が多くなるってことでもある。
穏やかな毎日に慣れれば、道理を想像できない馬鹿が増えるのは自明の理だ。
為政者という立場の責任やらを考えれば、今の方が楽だと思うがね。
サイキョウさんはリリムちゃんを一瞥すると、少し何か考えるような間を置いてからため息を吐いた後で、腕を組んで目を閉じました。
リリムちゃんはサイキョウさんが目を閉じたのを見届けた後で、視線を床に落として考えます。
そして、そんなことを考えた後で、リリムちゃんは吐息をひとつ吐くと、サイキョウさんと同じように目を閉じました。