サイキョウさんとリリムちゃん、最後の騒動を終わらせる 10
文字数 3,606文字
アンリさんがその場から姿を消した後で、サイキョウさんは疲れたような吐息を吐いてから言いました。
その言葉を聞いて、リリムちゃんは慌てた様子でサイキョウさんの方へ走り出すと、そのままの勢いでぶつかるまであるかな――と思われましたが。
サイキョウさんの手が届く範囲に入ったところで頬を挟むように顔を掴まれて、もがく羽目になるだけでした。
サイキョウさんはしばらく喚き散らすリリムちゃんを、本当に残念なものを見るような目で眺めていましたが、
やがてうんざりしたような様子で溜め息を吐いてそう言った後で、リリムちゃんを解放しました。
リリムちゃんは先ほどまで掴まれていた頬をほぐすようにもにもにしながら、口を開きます。
そんな風に抗議の声をあげるリリムちゃんの後ろから、刺客の人も若干気まずそうにしながら口を開きます。
ただ、相変わらず言葉の選び方が悪かったため、
その発言を聞いたリリムちゃんが、そんな風に声を張り上げながら、刺客の人へと振り向きました。
そのまま放っておくと、掴みかかりに向かう勢いだったので、サイキョウさんは溜め息を吐きながらその襟首を掴んで止めます。
とは言え、これはどちらかと言うと刺客の人の方が悪いと判断したのか、
目が笑っていない笑顔を向けながら、釘を刺すようにそんなことを言いました。
刺客の人が引きつった笑顔を浮かべながら、無言で何度も頷く様子を眺めた後で、サイキョウさんはリリムちゃんに視線を移すと言葉を続けました。
リリムちゃんはなんとか自分の中で折り合いをつけたのか、サイキョウさんを見ながらそう言いました。
サイキョウさんはへいへいと頷いてから、手を離します。
サイキョウさんの手から解放されたリリムちゃんは、刺客の人を一度睨みつけた後で、サイキョウさんの方に視線を戻してから言います。
リリムちゃんが訝しげに表情を歪めながら言葉を続けるよりも先に、サイキョウさんが言葉を続けます。
そこに居る兄ちゃんも、この屋敷のどこかに居るだろう使用人連中も――そしてこの屋敷の主人であるあのおっさんも。
今となってはおまえさんの奴隷なんだぜ。
知りたいことがあるなら聞けばいい。連中は嘘を言えん。
やって欲しいことがあるなら、命じればいい。連中は断れん。
未来永劫、死ぬまでずっとそのままだ。
サイキョウさんが告げた内容に、リリムちゃんも刺客の人も絶句しましたが、
かろうじて先に復帰できたリリムちゃんが、信じられないことを聞いたという表情で、嘘でしょうという気持ちがにじみ出ているような声音で問いかけて。
サイキョウさんは淡々とした調子で、リリムちゃんの質問に問い返すような言葉を口にしました。
サイキョウさんの言葉は、質問に質問を返すような答えでしたが。
先ほど現れたアンリさんの尋常でない威圧感を体験しているリリムちゃんからすれば、それは回答としては十分すぎる内容でした。
サイキョウさんが示したこれ以上はないだろう回答に、リリムちゃんはそれくらいしか言うことができませんでした。
サイキョウさんはリリムちゃんのそんな様子を見て、小さく吐息を吐いてから言います。
リリムちゃんは黙ってサイキョウさんを見つめます。
サイキョウさんはリリムちゃんの意識がこちらに向いていることを確認してから、言葉を続けます。
端的に言おう。
結論から言えば、ちいひめちゃんの言葉に絶対の強制力はない。
その言葉に応じるかどうかは、ある程度相手の判断に委ねられることになる。
しかし一方で、言うことを聞かなかった場合は、相手が不幸な出来事に巻き込まれることになる。
サイキョウさんの言葉を聞いて、しかし内容がうまく理解できなかった――というよりは納得いく解釈を見つけられなかったリリムちゃんはサイキョウさんに更なる説明を求めました。
サイキョウさんはリリムちゃんの問いかけに、どう答えるかを悩むような間を置いた後で口を開きます。
主人であるちいひめちゃんには、相手に言うことを聞かせる権利があるわけだが。
奴隷側にも、一応は、命令に従わない権利があるのさ。
ただ、この契約において奴隷側には命令に従わなければならない義務を課しているわけだから、言うことを聞かなければ罰を与えるという、それだけの話だ。
しかし、サイキョウさんが口にした内容はリリムちゃんには理解できなかったようで。
リリムちゃんはいまいち納得がいっていない様子で、そんな言葉を口にします。
サイキョウさんはえーと戸惑うような――あるいはうんざりしているような表情を見せたものの。腕を組みながら目を閉じると、随分と長い間、悩むような時間をあけてから口を開きました。
サイキョウさんの言葉に、何だその程度かと、リリムちゃんはちょっと拍子抜けしたような表情を浮かべましたが。
サイキョウさんが続けた言葉に、再び表情を凍りつかせました。
リリムちゃんの表情から、ある程度内容が理解できたとようだと踏んだサイキョウさんは、更に言葉を続けます。
加えて、この契約は奴隷側に主人への反抗を許さない。
だから、命令を拒否した場合と同様に、反抗あるいは敵対した場合にも同様の事態が発生する。
その可能性がある行動についても、同じように処理される。
……まぁ、降りかかる不幸の程度は、奴隷側の起こした行動の内容によるがね。
サイキョウさんから告げられた契約の内容を聞いて、その内容が理解できたリリムちゃんは愕然とした様子で黙り込んでしまいました。
サイキョウさんはそんなリリムちゃんから視線を外すと、この場にいるもう一人の当事者である刺客へと視線を向けます。
刺客の人は少し青ざめた表情で固まっていましたが、そんなことはお構いなしに、サイキョウさんは言います。
サイキョウさんの言葉を聞いて、刺客の人はこの世の終わりみたいな顔をして絶句していましたが。
サイキョウさんはその反応を見ても特に何かを言うこともなく、視線をリリムちゃんに戻して言葉を続けます。
そしてそう言うと、サイキョウさんはリリムちゃんの頭をがしがしと荒い手つきで撫で始めるのでした。