サイキョウさんとリリムちゃん、旅に出る 4

文字数 1,442文字

 サイキョウさんが持ってきた料理が皿の上から無くなった頃に、リリムちゃんがぽつりと呟くように言いました。
 ……ま、まあまあだったわね。悪くなかったわ。
 …………。
 サイキョウさんはそんなことをのたまったリリムちゃんを半目で見つめます。
 そして、しばらく悩むように中空を見つめた後で、
 そのザマで何抜かしてんだクソガキ。
 そんな言葉と共にリリムちゃんの脳天に割と勢いよくチョップを入れました。
 ――ぎゃむ!? ちょ、ちょっと、いきなり何するのよ!?
 痛みよりもむしろ驚きのほうで涙目になりながら、リリムちゃんは頭を抱えつつ抗議します。
 しかし、サイキョウさんは気にも留めず――むしろ更に機嫌が悪くなったかのように顔をしかめて、リリムちゃんの頭をがっしりと掴みました。
 ……ちょっと、何ですかこの手は。
 あ、力篭めてるのね、痛いんだけど。やめてよ、こういうの。
 ねえやめてったら。そろそろ洒落になら――痛い痛い痛いってばぁあああ!
 どうやらそのまま力を入れているようです。
 痛みに悶絶しながらも、リリムちゃんは必死にサイキョウさんの手から逃れようともがきますが、サイキョウさんの手はぴくりとも緩む気配がありません。
 あのな、食い尽くすまで無言で止まらなかった挙句にだ、俺の分まで殆ど食いやがった癖に、どの口でそんなこと抜かしてんだ。ああ?
 だからまあまあだったわねって言ったじゃない!
 ……俺が部屋を出る前に多少殊勝になったかと思ったらこれだよ、この王族様は。
 ちょ。さらに強くなって――ああああもおおおお痛いいいい!
 お嬢ちゃんが最初にうちに来たときも似たようなことをわからせたつもりだったけどな。
 わからないならはっきり言ってやろうか?
 ――口は災いの元だ。言葉には気をつけろ。
 わかりましたごめんなさい! 料理は大変おいしかったです!!
 あと一言足りない。
 食事ありがとうございました! 離して!
 はい結構。今後も気をつけろよ。
 そういって、サイキョウさんはリリムちゃんの頭から手を離しました。
 リリムちゃんは解放されたものの、頭部に残る痛みに、思わず頭を抱えながら悶えます。
(こいつ、本当に私をなんだと思ってるのよ!? 扱いが雑すぎじゃない? いくらなんでもさぁ!)
 リリムちゃんはそんなことを考えるものの、口には出しません。出したらまた折檻されると思ったからです。
 とは言え、目は口ほどにものを言うという言葉がある通り、リリムちゃんがサイキョウさんを見る目は大変恨みがましく、思っていることを全然隠せていませんでしたが。
 言いたいことがあるなら言ってもいいぞ。
 ……飲み物をちょうだい。あ、いや、ください!
 ……まぁすぐに言い直せたから見逃してやる。
 ちょっと待ってろ。下に行ってもらってくるから。
 サイキョウさんはリリムちゃんの顔をしばらく無言で眺めていましたが、やれやれと溜息を吐きながらそう言うと席を立ちます。
 リリムちゃんは再び折檻を受けずに済んだことによほど安心したのか、脱力して椅子の背もたれに思わず体を預けてしまいました。
 飲み物を持って来たら、ちょっと真面目な話をするぞ。
 うまく説明できるように、ちゃんと喋る内容を考えておけよ。
 ……わかってるわよ。
 ああ? 何だって?
 ちゃんと準備しておきます! 大丈夫です!
 ……流石にそこまでしろとは言わんが。まぁいいや。
 待ってる間に寝るなよ。いいな?
 サイキョウさんは釘を刺すようにそう言うと、部屋を出て行きました。
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登場人物紹介

サイキョウさん。主人公。

得意なこと:体を使うこと全般
苦手なこと:異性や子どもとのコミュニケーション

一般的な常識を理解した上で、暴力という解決方法を採ることが多かったりする人。悪人でも善人でもない、俺ルールの行使者。

リリムちゃん。小さい姫さん。略してちいひめちゃん。
得意なこと:虚勢を張ること
苦手なこと:体を使うこと

トラブルメーカーそのいち。
遊興すれば襲われる、街を歩けば攫われるといいことなし。
サイキョウさんの理不尽な扱いにもそろそろ慣れてきた。

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