サイキョウさんとリリムちゃん、この街での過ごし方について話をする

文字数 1,641文字

 サイキョウさんとリリムちゃんが今日の宿を見つけることができたのは、日も落ちてしばらく経った頃のことでした。
 今日はてっきり野宿になるかと思ったよ。
 ……わ、悪かったと思ってるわよ。わがまま言って。
 宿で部屋をとって、そのまま宿屋の食事処で夕食を摂るサイキョウさんとリリムちゃん。
 夕食を一緒に食べながら、サイキョウさんからかけられた言葉に、リリムちゃんは若干悔しそうな表情を浮かべながらそう言いました。
 宿を見つけるのに時間がかかったのは、リリムちゃんが選り好みをしたせいなので、強く文句を言うことができなかったのです。
 だって、部屋が汚いのは嫌じゃない……。
 リリムちゃんは王族であり、女の子です。
 当然、今までの生活で用意されたものは上等なものばかりで。だから、設備の要求基準が普通の人より上になってしまうのは当然と言えば当然のことでもあります。
 要はリリムちゃんのお眼鏡にかなう宿屋がなかなか見つからなかったという話です。
 まぁ別に、俺は野宿だろうと気にはせんが。
 妥協というのは必要だし、重要なことだぜと言っておこう。
 ……親切にご忠告どうも。覚えておきますぅ。
 ……とりあえず小言はこれ以上言うまい。
 それよりも、だ。これからの話をしよう。
 ……? いったい何を話すっていうのよ。
 ちょっとした確認事項ってやつさ。大した話でもない。
 話しておきたい内容は大雑把にまとめればふたつだ。
 ……聞くわ。何よ。
 ひとつは旅の話。出発日を明日までに決めておけ。
 どうあがいても最短での出発日は二日後になるから、それ以降でな。
 ……徒歩がいいなら明日でも構わんがね。
 徒歩はマジで無理だから。それだけはないから。
 ……ふたつめは?
 出発日までの過ごし方についてだ。
 ……そう身構えるな。別に何かを強制するわけじゃあない。
 朝と夕方、この場所で落ち合うようにしようと、それだけの話さ。
 何のために?
 単なる生存確認ってやつだよ。
 ま、ちいひめちゃんは現在進行形でトラブルに巻き込まれているわけだが、四六時中一緒に居るというのも息が詰まるだろう?
 そこだけ守れば、あとは自由に行動したらいい。
 一日中宿屋に篭るもよし、街中を見て回るもよし。
 ついてきて欲しいなら声をかけてくれりゃあそれでいい。
 そういう時間を作っておこうと、そういう話さ。
 ……わかったわ。
 でも、随分と大雑把な時間の決め方だけど、それでいいの?
 朝に姿が見えなければ部屋に行けばいいし。
 夜に姿が見えなければ、そりゃ多少探せば済む話でな。
 俺がやりたいのは、そういう線引きの方だ。
 意思疎通に関しては、最悪、宿屋の人間に言伝を頼んでいればそれでいいんだ。きっちり顔をつきあわせて会話をしなきゃならんわけでもないんだから。
 サイキョウさんの言葉を聞いて、リリムちゃんは少し考えるような間を置いた後で、納得したように頷きを返します。
 話はそれだけかしら?
 ああ、そっちから何か無いんなら。
 俺からはこれ以上言うことはないぜ。
 そう、と頷いてから、リリムちゃんは席を立ちました。
 今日は疲れたから、もう部屋に戻って休むわ。
 ……また明日、ここで落ち合いましょう。
 ああ、寝坊するなよ。
 しーまーせーんー!
 ここに来るまでの間でも、起きれなかったことないでしょうがっ。
 ならいいんだが。
 
 小さく笑って言うサイキョウさんに、リリムちゃんは不満げな表情と視線を向けましたが、
(……ムキになるだけ無駄よ、私。これはこういう相手、こういう相手)
 そう考えながら自分を落ち着けた後で、テーブルを離れるように歩き出しました。
 サイキョウさんは離れていくリリムちゃんの背中を見ながら、溜息を吐きます。
 ……できれば穏便に、何事もなく出発できりゃあいいんだがね。
(……まぁ何かあったら、そのときはそのときか)
 考えても仕方ないかと、サイキョウさんは思考を中断すると、近くの店員に酒の追加注文をしてから、残っていた酒を一息に飲み干しました。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

サイキョウさん。主人公。

得意なこと:体を使うこと全般
苦手なこと:異性や子どもとのコミュニケーション

一般的な常識を理解した上で、暴力という解決方法を採ることが多かったりする人。悪人でも善人でもない、俺ルールの行使者。

リリムちゃん。小さい姫さん。略してちいひめちゃん。
得意なこと:虚勢を張ること
苦手なこと:体を使うこと

トラブルメーカーそのいち。
遊興すれば襲われる、街を歩けば攫われるといいことなし。
サイキョウさんの理不尽な扱いにもそろそろ慣れてきた。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色