サイキョウさんとリリムちゃん、最後の騒動を終わらせる 2
文字数 1,398文字
本来であれば静かな夜に、騒がしい音が響いていました。
それは硬質な何かと何かがぶつかる音でした。
それは甲高く響く割れ砕けの音でした。
――それらは争いによって生じる戦いの音です。
前者は武器と武器、あるいは武器と障害物が衝突して起こる音であり。
後者は攻撃の応酬によって生じる余波で周囲の物が壊れる音でした。
しかし。
この場においてそれらの音よりも特徴的で、かつ大きく響いて聞こえるのは。
衝突によって発生した被害を間近で見る、リリムちゃんの悲鳴でした。
リリムちゃんは王族ではありますが、子どもであり、戦いというものとも無縁の人間です。
そんな人間が――狙われている側なのだから当然のことですが――武器を向けられたり、戦闘の中心にいれば騒ぎ出すのも当たり前です。
ただ、リリムちゃんが当然の反応を示すように。
サイキョウさんもまた、リリムちゃんの反応に対していつも通りの調子で言葉を返します。
まるでなんでもないことをしている最中のように言うサイキョウさんに、リリムちゃんは思わず悲鳴ではなく怒声を発します。
サイキョウさんはそうかい、とリリムちゃんの言葉に応じると、リリムちゃんの身体を解放しました。
突然身体の自由が戻ったリリムちゃんは、たたらを踏むように覚束ない足取りで数歩を進んだ後で、体勢を整えるとすぐさまサイキョウさんの方に振り返って口を開きます。
サイキョウさんはそう言って溜め息を吐きます。
リリムちゃんはサイキョウさんの言葉に納得がいかないと、食い下がるように言葉を続けようとして。
それ以上言葉を続けることができませんでした。
なぜなら、これまでに響いたどんな音よりも高く大きな音が響いたからです。
音源はサイキョウさんの視線が向く先、リリムちゃんの背後にありました。
音が発生するよりも一拍遅れて、リリムちゃんが背後を振り返ると、
そこには苦い表情で距離を取るように飛び退る、刺客の姿がありました。
その光景を見て、リリムちゃんはようやく理解します。
先ほど発生した音が、自分を狙って放たれた一撃を何かが防いだからこそ響いたものなのだと。
そして、それをやったのが一体誰なのかを。
この場において味方になりうる人物が誰なのかをすぐに理解できないほど、リリムちゃんは馬鹿ではありません。
リリムちゃんは無言で視線を背後に――サイキョウさんの方へと向けました。
リリムちゃんの視線を受けたサイキョウさんは、小さく笑いながら口を開きます。
そう思ったものの、口にはしないリリムちゃんでした。