サイキョウさんとリリムちゃん、旅に出る 3

文字数 1,278文字

 出来たての料理を持ってリリムちゃんの居る部屋に向かったサイキョウさん。
 ノックをしても反応がないことに、もしや、と思って持っていた鍵で扉を開けて中に入ってみれば、リリムちゃんは案の定ベッドの上で眠りこけていました。
 起きろクソガキ。
 サイキョウさんはそう言ってリリムちゃんの眠っているベッドの足を思い切り蹴り飛ばします。
 ――ふわぁあ!? な、何事!?
 いきなりベッドが大きく揺れたので、驚きで声をあげながら飛び起きるリリムちゃん。混乱した様子で四方八方に視線をやった後で、サイキョウさんの姿を認めると、事態を理解して声をあげます。
 もうちょっと、こう、起こし方ってもんがあるでしょう!? 声をかけて起こしてみるとかさぁ!
 いやほら、料理で両手がふさがってたから。
 声をかけろって言ったんですけどぉ!? そうだとしても、テーブルに料理置けばいいだけでしょうが!
 往復すんのめんどいじゃん。それにこの方が早いし。
 ……っ! もう、もう!
 相変わらずの物言いに、リリムちゃんは言葉がもう出ません。憤りを晴らすようにベッドをばふばふ叩きます。
 ……まぁそうかっかすんなよ。
 言ったとおり、出来たての料理を持ってきてやったんだ。
 テーブルの方に来い。冷める前に食おうぜ。
 サイキョウさんはリリムちゃんのそんな行動を面倒くさそうに眺めた後で、そんなことを言うと、料理を持ってベッドから離れていきます。
 リリムちゃんはそんなサイキョウさんの行動も気に入らなかったようですが――出来たての料理のいい匂いと自身の感じる空腹に根負けしたのか、やがてベッドを叩くのを止めると、大人しくベッドから起き上がってテーブルへと向かいます。
 お高い宿だけあって、料理の質もまぁまぁだな。
 王族様のお口に合うかどうかは知らんがね。
 サイキョウさんはリリムちゃんがテーブルに着くのを待つこともなく、先に口をつけてそんなことを言いながら意地悪く笑います。
 リリムちゃんはサイキョウさんの物言いにむっとした表情を作ったものの、何かを言うことはありませんでした。
 サイキョウさんはこういう人間なのだと、既に諦め始めているのかもしれません。
 リリムちゃんは無言でサイキョウさんの対面に座ると、目の前の料理に手を伸ばしました。
 そして一口、料理を食べると。
(――おいしいっ)
 心の中で強くそう思いながら、さらに一口、一口と料理を食べ進めて行きます。
 何かを話すでもなく夢中になって食べ続けるリリムちゃんを、サイキョウさんは小さく笑いながら眺めます。
(まぁ一日以上食べてなかったんだろうし。こうなるのは予想できたが、実際に目の当たりにすると微笑ましいもんだな)
 ただ、リリムちゃんは食べるのに夢中になりすぎていて、話を出来る状態ではなさそうです。
(食べながら今後について話そうと思ってたんだがな。
 ……まぁ、食べ終わってからでもいいか)
 サイキョウさんはそう考えてから、自分の分を食べつくされては敵わんなと思い直して、リリムちゃんに食べつくされる前に自分の分を確保するべく料理に手を伸ばし始めました。
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登場人物紹介

サイキョウさん。主人公。

得意なこと:体を使うこと全般
苦手なこと:異性や子どもとのコミュニケーション

一般的な常識を理解した上で、暴力という解決方法を採ることが多かったりする人。悪人でも善人でもない、俺ルールの行使者。

リリムちゃん。小さい姫さん。略してちいひめちゃん。
得意なこと:虚勢を張ること
苦手なこと:体を使うこと

トラブルメーカーそのいち。
遊興すれば襲われる、街を歩けば攫われるといいことなし。
サイキョウさんの理不尽な扱いにもそろそろ慣れてきた。

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