サイキョウさんとリリムちゃん、旅に出る 7
文字数 3,549文字
リリムちゃんのツッコミはあまりにも大きな声だったので宿屋の人から注意されました。
リリムちゃんはサイキョウさんの言葉に思わず声を荒げてしまいますが、先ほどよりも小さかったので特に周囲からの反応はありませんでした。
とは言え、流石に怒られた直後ということもあってか、リリムちゃんは慌てて口を抑えます。
ぐぬぬと唸るような表情でそんなことを呟くリリムちゃん。
サイキョウさんはその様子を見て吐息をひとつ吐いた後で、リリムちゃんに向かって問いかけます。
リリムちゃんはそう言って、ふんと鼻を鳴らした後で、道を空けるように体をずらしました。
サイキョウさんは空けてもらった隙間を通るように扉をくぐります。
リリムちゃんは拗ねるように、吐き捨てるように言葉を返します。
サイキョウさんはリリムちゃんの物言いと態度に、内心で溜息を吐きながら、部屋の中を見回します。
気になったのは、やはりテーブルの上にあるお金の入った布袋です。
それは、サイキョウさんの記憶違いでなければ、昨日出て行ったときから位置が変わっていませんでした。
サイキョウさんが何を見ているのかに気が付いたリリムちゃんが、扉を閉めながら、自分からそんな言葉を口にしました。
サイキョウさんは対応に困ったような表情を浮かべて頭を掻いた後で、リリムちゃんの言葉に応えるように口を開きます。
リリムちゃんは少しだけ声を低くして、呟くようにそう言いました。
サイキョウさんはそう考えながら、お金の入った布袋の口を閉じた後で、リリムちゃんのために用紙した荷物の中に入れました。
リリムちゃんはその様子を眺めながら、話を続けます。
なんだかんだでもう昼過ぎてるんだ。一刻でも早く目的地に行きたい、って言うなら止めないが、オススメはしないな。
万全を期すなら、今日は、俺が用意した荷物を自分で確認して、お嬢ちゃんが足りないと感じたものを買いに行く方がいいと思うがね。
サイキョウさんは小さく笑いながらそう言うと、テーブルの上に荷物を置きます。
リリムちゃんは吐息を吐きながらそう言うと、椅子に座ってから、サイキョウさんが用意した荷物の中身を確認し始めます。
サイキョウさんも空いた椅子に腰掛けます。そして、荷物の中身を改めるリリムちゃんを眺めながら、口を開きます。
サイキョウさんは面倒だよなぁと内心で溜息を吐いた後で、話を続けます。
リリムちゃんは荷物からサイキョウさんへと視線を移します。
しかし、サイキョウさんはその視線を追い払うように手を振りました。
リリムちゃんは心底疑わしげに表情を歪めましたが、特に何を言うでもなく、サイキョウさんから荷物へと視線を戻します。
サイキョウさんはその様子を確認してから、話を続けます。
リリムちゃんは視線を荷物から一瞬だけサイキョウさんに向けて、話の先を促します。
途中でよっぽど無駄遣いしなきゃ足りるようにしてやるよ。
ふたつ、旅の道中では王族である事実を隠すこと。
周囲が信じるかどうかは関係なく、そういう発言は面倒の種だ。
可能な限りでいいから普通に振舞え。ダメだったら矯正する。
矯正、という単語に、リリムちゃんは思わず苦い表情を浮かべました。サイキョウさんから受けた仕打ちを思い出してしまったからです。
けらけらと笑うサイキョウさんに、しかし、リリムちゃんは何も言いませんでした。
と言うより、提案を蹴るだけの強い理由がないので何も言えないだけのようです。
せめてもの抵抗としてなのか、リリムちゃんはサイキョウさんに若干嫌そうな表情で視線を向けています。
サイキョウさんはリリムちゃんの無言の抗議を受け流しつつ、口を開きます。
リリムちゃんはしばらく葛藤しているのが傍目にもわかるくらいにしばらく悶えていましたが、やがて諦めたような表情になると、大きく溜息を吐いて項垂れました。
サイキョウさんはそう言うと、椅子から立ち上がって扉の方へと向かいます。
リリムちゃんも置いていかれないようにと、その後についていきます。
サイキョウさんはあまりにも低い声でそう言ってきたリリムちゃんに少し驚いた後で、かかと笑います。
そして、そんな他愛のない会話をしながら、必要な物を揃えるべく部屋から出て行きました。