リリムちゃん、とりあえず明日に備えて寝ることにする

文字数 1,291文字

 あまりにもあっさりとこの場を後にしたサイキョウさんに向けて言うように、リリムちゃんは呟きます。
 ……お礼を言う暇もなかったわね。
(……まぁ仮に時間があったとしても。

 素直に口に出来たかどうかは、微妙なところだけれど)

 そんなことを考えながら、リリムちゃんは溜め息を吐きましたが、
(……名前を、呼んでもらえたわね)
 去り際にサイキョウさんが口にした言葉の中に、自分の名前があったことを思い出して、自然と顔がにやける自分を認識していました。
(……忘れていたわけではなくて。

 最後に呼ぶだけの価値があると思ってくれたのかな)

 リリムちゃんはそう考えると、ふふと笑い声をあげました。

(そうだったら、それ以上に嬉しいことはないわね。

 あの人のように、自分で全てを選べる強さを持った人に、一部でも認められるのは嬉しいことだもの)

 まぁ、性格的な意味であの人みたいになりたいとは、決して思わないのも確かなんだけど。

 リリムちゃんはそう呟いてから目を閉じると、深呼吸をひとつ挟み。
(だけど、また会えたときにも名前を呼ばれる程度にはなっておこう)
 自分に言い聞かせるようにその言葉を思った後で、よしと頷いてから刺客の人へと視線を向けてから口を開きます。
 そこの名前も知らない人、呆けている暇はないわよ!
 リリムちゃんから声をかけられて、刺客の人はびくりと体を跳ねさせるほど驚いた後で、視線で問いかけます。どういう意味だ、と。
 刺客の人からの疑問符を受け取ったリリムちゃんは、その疑問に対してわかりやすい答えを口にします。
 あなたには早速頼みたい仕事があるわ。

 ――ああ、大丈夫。そんなに難しい仕事じゃないから。

 だって、この屋敷に居る人間に、私との間に契約が結ばれていることを説明するだけだもの。事情も含めて、全てよ。簡単でしょう?

 にいっと笑いながら出てきた言葉に、刺客の人は心底嫌そうな表情を浮かべていましたが、
 ――ああ、確かに承ったよご主人様。
 随分と長い葛藤の果てに、何もかもを諦めたような溜め息を吐いた後で、了承の返事を口にしました。
 まぁ、断れば命に関わることを十二分に理解しているのだから、断れるはずもありません。
 そして、リリムちゃんもその事実はきちんと理解しています。
 だから。
(これは私の力じゃない。彼の配慮によるものだ。

 それはわかってる。だけど――)

 ――だからこそ、ここから積み上げるのよ。
 リリムちゃんは自分に言い聞かせるように、そんな言葉を口にするのでした。

























 と言っても、今日は遅いから明日からね!

 ――それじゃあ、私はどっかの空き部屋でてきとーに寝てるから。

 そこの人、仕事はちゃんとしておきなさいよ!

 これ言うと怒られるかもしれないけど、言ってやる。

 ――その傍若無人ぶりはあの男にそっくりだよ、マジで!

 それはとても光栄なことと存じますわ。ええ、本当に。

 ――これで満足? じゃあ、私は寝るからあとよろしく。

 そして、リリムちゃんは刺客の人の抗議をあしらうように鼻で笑ってから、宣言通りに屋敷の中の空き部屋――もとい寝床を探すべく屋敷の中へと戻っていきました。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

サイキョウさん。主人公。

得意なこと:体を使うこと全般
苦手なこと:異性や子どもとのコミュニケーション

一般的な常識を理解した上で、暴力という解決方法を採ることが多かったりする人。悪人でも善人でもない、俺ルールの行使者。

リリムちゃん。小さい姫さん。略してちいひめちゃん。
得意なこと:虚勢を張ること
苦手なこと:体を使うこと

トラブルメーカーそのいち。
遊興すれば襲われる、街を歩けば攫われるといいことなし。
サイキョウさんの理不尽な扱いにもそろそろ慣れてきた。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色