サイキョウさん、リリムちゃんを探しに街を行く 2
文字数 1,877文字
夜の遅い時間帯に、大変騒がしい音が響いていました。
それは何かを破壊する音でした。
それは誰かが何かに立ち向かうときにあげるときの声でした。
――そして、その誰かが無残にやられてしまったときの悲鳴でした。
それらの音はこの街の中心部から外れた、俗に言うところの貧民街の一角で響いていました。
こんな騒ぎが複数起こることなど滅多にないでしょう。
ゆえに、現在この街で表面化し得るトラブルといえばひとつしかありません。
リリムちゃんを巡る騒動です。
リリムちゃんはお子様なので――というかお子様でなくとも今の時間は誰だって眠っていたいと思う時間帯なのですが――捕らわれの身であっても眠気には勝てません。
そんなわけで欲望に任せて眠りこけていたわけですが、突然響いてきた大きな音に驚いて飛び起きました。
とは言え、眠りから覚めたところでリリムちゃんの現状は変わりません。
薄暗い部屋の中で拘束されて身動きがとれない状況に変わりはありません。
だから、わかるのは周囲が騒がしくなっている状態であることと、その騒ぎがどんどんこの場所に近づいてきていることだけでした。
寝ぼけ頭にも大変刺激的かつ精神衛生上よろしくないとわかる音に、リリムちゃんの意識は一瞬で覚醒し、この音が発生するだろう原因になるだろう誰かの存在を頭に思い浮かべます。
――そして、まさにその瞬間を狙ったかのように。
ひときわ大きい音とともに、リリムちゃんの視界、ほぼ真横の見えない位置にある壁が爆発四散する勢いで弾け飛びました。
若干現実逃避気味に思索にふけっていたリリムちゃんからすれば、それはまさに不意打ちです。思わず大声をあげて慌てふためいてしまいます。
そして、そんなリリムちゃんの叫びに応えるように、粉塵の向こうから声が響きました。
粉塵の向こうから姿を現したのはリリムちゃんにとって見覚えのある姿で、サイキョウさんその人でした。
リリムちゃんの反応を見て、サイキョウさんはやれやれとため息を吐きます。
サイキョウさんはリリムちゃんの言葉にそう応じながらリリムちゃんの傍に近寄ると、リリムちゃんの拘束を解いた後で立ち上がって言います。
サイキョウさんのその言葉はリリムちゃんにとって一番言われたくない言葉でした。だって事実だからです。言い返せません。
何も言えずに唸るしかないリリムちゃんを見てから、サイキョウさんはため息を追加して言いました。
まぁガキが迂闊なのは当たり前のことで、それが温室育ちってんなら尚更だ。それをねちねちと責めるつもりはねえよ。
それに、終わったことをぐだぐだ言っても仕方ないからな。
……ほら、さっさと立て。宿に帰るぞ。
一瞬、何かを言い返そうかと思ってしまったリリムちゃんですが――よくよく考えるまでもなく、サイキョウさんに本来リリムちゃんを助ける義理がないことに気付きます。
流石にこれ以上サイキョウさんの手を煩わせるのは悪いと、そう考えて、リリムちゃんはサイキョウさんの言葉に素直に頷きを返して立ち上がりました。
サイキョウさんはそう言って、出来た大穴から外に出ました。
サイキョウさんがわざわざ言葉にしたということは、本当に相当歩くのだろうとリリムちゃんは理解しました。
とは言え、文句を言う権利がないこともリリムちゃんはちゃんと理解しています。
リリムちゃんはサイキョウさんの言葉にそう返してから大きなため息を吐いた後で、置いていかれないようにと、サイキョウさんの後を追うように大穴から外に出ました。