サイキョウさん、リリムちゃんを探しに街を行く 3
文字数 2,470文字
サイキョウさんとリリムちゃんは建物から外に出ると、宿に向かって歩き出しました。
リリムちゃんはこの場所がどこなのか、どう向かえば宿に辿り着けるのかわかりません。だから自然と、サイキョウさんの後について歩くような形になります。
歩き出して早々に、実はサイキョウさんからそんな言葉が出ていたのですが、
これ以上借りを作りたくないという子どものような意地が出たのか、リリムちゃんがそう答えた結果の現状でした。
サイキョウさんとリリムちゃんは、特に会話をすることなく、黙々と歩みを進めます。
サイキョウさんは時折背後についてくるリリムちゃんを見て、きちんとついてきているかどうかを確認するくらいで、この場所を歩くことそれ自体は気になっていないようです。
一方のリリムちゃんはというと、結構無理をして歩いていました。
一日中街を歩き回った挙句に、まともに眠ることもなく夜半を過ぎるまで起きて動いているということは、まだ子どもであるリリムちゃんにとっては厳しいものです。
加えて、上流階級の人間であるリリムちゃんからしてみれば、貧民街特有の環境――特に不衛生な面については我慢もかなり難しかったことでしょう。
しかしリリムちゃんがそれ以上に気にしていたのは、捕まっていた建物から出た後に見た光景についてでした。
破壊されたいくつもの建物。
散乱する瓦礫の山。
――その間を埋めるように転がる、怪我をした人間たち。
建物を出た直後は目の前の光景の凄惨さに絶句していたリリムちゃんでしたが、現場から離れてまともで落ち着いた環境――それでも貧民街らしく整備されていないひどい有様ですけども――になれば多少は頭が回るようになるものです。
人間というのは頭が回れば色々なことを考えます。そして考えれば疑問を覚えることもあるでしょうし、答えてくれそうな相手がいればその答えを知りたいと思うのは当然のことでしょう。
背後からの問いかけに、サイキョウさんは視線を返すこともなく、声だけで反応しました。
リリムちゃんは、その呼び方はやめてほしいと言ってるのに、と思いながらも口にはせず。許可をもらえたということで、聞きたいことを口にします。
リリムちゃんの質問を聞いて、サイキョウさんは少し考えるような間を置いた後で、何かに納得したように頷いてから口を開きます。
サイキョウさんはそう言った後で、自嘲するような笑みを浮かべて続けます。
リリムちゃんはそう言って、足を止めて俯きました。
サイキョウさんはリリムちゃんの足音が止まったことに気付くと、同じように足を止めて、リリムちゃんの方を見ます。
俯いて肩を震わせるリリムちゃんを見て、サイキョウさんはため息を吐いて頭を掻きながら言います。
そう言って、サイキョウさんはリリムちゃんから視線を外して歩き出しました。
リリムちゃんはサイキョウさんが歩き出して少ししてから、置いていかれないようにと、止めていた足を動かしました。
ただ、その視線はわずかに下がっています。
そう考えた後で、リリムちゃんは唇を噛みました。
リリムちゃんはそんなことを考えながら歩き続けます。
サイキョウさんはリリムちゃんの悶々と悩む気配を察して、
ガキのお守は相変わらずしんどいわ、とため息を吐きました。