サイキョウさん、リリムちゃんを探しに街を行く 4
文字数 2,299文字
さて、無事に宿屋に辿り着いたサイキョウさんとリリムちゃんでしたが、すんなり宿屋に入れたかというとそんなことはありませんでした。
リリムちゃんは自分の身を改めて確認した後で、ため息を吐きながらそんなことを考えます。
二人が通ってきた道は、衛生環境が最低だと思しき貧民街です。
リリムちゃんはそんな中で床に転がされて放置されていましたし、サイキョウさんにいたってはそんな場所で暴れています。
当然体中に汚れがついて、おまけに悪臭も染み付いてしまっていました。
そこそこにお高い宿の人間が、そんな二人を容易く受け入れるはずもありませんでした。
他のお客もこんな二人を嫌がるでしょうし、店がそんな人間を受け入れたという事実があれば、そのせいで悪い評判が出回る可能性もあるのです。客商売をする人間としては、当然の反応だったでしょう。
そして、普通の人間ならこの時点で入ることを諦めます。
そこそこにお高い宿屋の人間は、お金を持っている人間であり、当然その街でもそれなりにツテなどがあるのです。歯向かってもいいことはありません。
ただ、ここに居るのはサイキョウさんなので当然そんな論理は通用しません。
加えて、よりにもよってこの日このときこの時機に、そんな対応をするのは最高の悪手だったと言えるでしょう。
宿屋の人間が知る由もないことなので当然と言えば当然なのですが。
今のサイキョウさんは。
定期便確保の面倒な手続きを行うために退屈な状態で長時間拘束され。
トラブルに巻き込まれたリリムちゃんを助けるために街を走り回り。
リリムちゃんの足にあわせて貧民街から宿まで時間をかけて歩き続けた後なのです。
簡潔に言うと、非常に疲れている上に眠いので早く休みたいと思っている状態です。
だから、すでに金を払っている――つまり客として扱われるべきであり、入れて当然だと思っていたところに、サイキョウさん側にとっては従う理由がない言いがかりをつけられればどうなるか。
そんなことは考えるまでもありません。
暴れないだけマシでした。
頭を掴まれたことよりもサイキョウさんの発言内容にこそ絶句した宿屋の人間は、視線をリリムちゃんに向けましたが、リリムちゃんはため息を吐いてこう言うだけです。
まぁリリムちゃんもサイキョウさんと状況は似たり寄ったりなので、心情的にはサイキョウさんの味方になってしまうのも無理はありません。
所作からかなりの上流階級とすぐにわかるリリムちゃんの発言に、嘘ではなさそうだと理解した宿屋の人間は、サイキョウさんの言葉に無言で何度も頷いた後で道をあけようと体を動かします。
言うことを聞く気になったと理解したサイキョウさんは、宿屋の人間から手を離すと、大きく長くため息を吐いた後で宿屋に入っていきます。
サイキョウさんと宿屋の人間がそんな会話をする横を抜けて、リリムちゃんも宿屋に入りました。
そして宿で取った部屋の前まで辿り着くと、サイキョウさんは思い出したように言います。
サイキョウさんはそう言うだけ言って、リリムちゃんの反応を待たずに扉を開いて中に入ろうとしましたが、
リリムちゃんが口にした内容にお礼の言葉が入っていたことに思わず足を止めて、リリムちゃんに視線を向けた後で小さく笑うと、
リリムちゃんにそう応じてから部屋の中へと入っていきました。
リリムちゃんはサイキョウさんが部屋に入っていくのを見届けた後で、同じように自分の部屋の扉を開いて中に入りました。
そして汚れていることも気にせずに、寝台にうつぶせになるように飛び込みます。
そのまま溶けるように体から力が抜けていくのを感じながら、うっすらと遠のいていく意識でリリムちゃんは考えます。
眠くて回らない頭で少し支離滅裂かもしれないことを考えた後で、
眠る直前に思わずそう呟いてから、リリムちゃんは意識を手放しました。