サイキョウさんとリリムちゃん、旅に出る 1
文字数 4,141文字
リリムちゃんは寝ぼけた頭で考えます。
リリムちゃんはぼんやりと眠る直前のことを思い出します。
意識を失う直前に、間近で見てしまった衝撃的な光景を思い出して。
リリムちゃんは一気に意識を覚醒させて、寝ていたベッドから跳ねるように起きました。
サイキョウさんに声をかけられて、その存在に気付いたリリムちゃんは、サイキョウさんのことを見て思わず小さく悲鳴をあげてしまいます。
思い出したばかりのトラウマ光景、それを行った張本人が相手なのだから、無理もありません。
サイキョウさんはそう言って溜息を吐くと、リリムちゃんのいるベッドの近くまで椅子を寄せます。
リリムちゃんは近寄ってきたサイキョウさんに対して思わず身構えてしまいましたが、サイキョウさんは気分を悪くした様子もなく続けます。
リリムちゃんはサイキョウさんの言葉に納得すると、一日という時間を思って空腹を自覚して。
空腹を自覚した途端に大きく鳴ったお腹の音に、顔を赤くしてしまいます。
サイキョウさんから渡されたのは温かい飲み物です。
リリムちゃんは大人しく礼を受け取って一口飲んだ後で、話を続けます。
リリムちゃんの質問に、サイキョウさんは少し嫌そうに表情を歪めます。
リリムちゃんはサイキョウさんの言葉に、若干不満げな視線を返すだけでした。
サイキョウさんはリリムちゃんの無言の視線をしばらく受け続けていましたが、根負けしたのか、うんざりとした様子で溜息を吐いてから答えます。
ざっくり言うけどな。
お嬢ちゃんが眠っちまった後で少しあの連中と話をした。
聞けることは全部聞き出したから、追い返した。
その後で、近くの街まで来て宿をとって、お嬢ちゃんが起きるのを待っていた。
……そんなところだ。
そう言ってケラケラ笑うサイキョウさんを見て、リリムちゃんは愕然とします。
サイキョウさんの言葉が、ただの本音だとわかってしまうからです。
おかしい、というのは別に気が狂っているとかアレな人とか、そういう意味ではありません。
そう思う気持ちが全くないわけでもありませんでしたが――リリムちゃんが意識を失う直前に見た光景を思い返しながら考える意味は違うものです。
リリムちゃんは王族です。その生活の中で、普通の人では会えない人物と出会う機会もありました。
その中には最強と称される剣士や、高名な冒険者、勇者として選ばれた人物なども含まれます。
リリムちゃんは過去に出会ったそんな人たちと似通った――いえ、それ以上の何かを、サイキョウさんから感じていました。
そう思うんなら、あの高圧的な物言いは二度としないことを勧めておこう。
……俺は自分の勘を信じて生きてる人間なんでな。一目見て嫌悪感を抱かなかった人間はそれなりにマシなやつが多かった、という経験則に従って行動してるだけさ。
そういう連中を見捨てるのは、どうにもいい気持ちがしないんだ。だから、目覚めが悪いことにならんように、助けた。それだけだ。
サイキョウさんはそう言った後で、吐息をひとつ挟んで続けます。
子どもをそのまま一人で送り出すのは、まぁ場合によってはやるけどな、その後に酷いメにあったことがわかったら気分が悪くなるからだ。
とりあえずそこまですれば気が済む。それだけ。結局俺の気分の問題だよ。
……あと、次の家が決まるまで暇なんだよね。だから、暇潰しも兼ねてる。
おい、なんだその目は。人を見た目だけで判断しちゃいけねえな。
勘違いするなよ。俺はその日使う分の金を稼ぐように心がけているだけなんだぜ。人間、働かないとすぐダメになるからな。これでも、金は使いきれないくらい持ってるんだ。
若い頃に、かなり頑張ってた成果というか名残というか、まぁそんなところだが。
サイキョウさんはそう言って、ベッドの傍から離れます。
その背中に、リリムちゃんは問いかけます。
言ったろ。サンドリムだっけ? 城まで送り届けてやるよ。それでも十分だろ。
まぁ、あの連中の話を聞いてると今すんごい騒ぎになってるみたいだから、俺と一緒に行ってまともに相手をしてもらえるとは思わんがなぁ。
サイキョウさんはうんざりした様子でそう言うと、溜息を吐きながら部屋を出ます。
部屋に一人残されたリリムちゃんは、扉が閉まる音を聞いた後で、ベッドに再び横になりました。
そして、そんなことを考えながら、どうにかなればいいけどと溜息を吐きました。