サイキョウさんとリリムちゃん、旅に出る 6
文字数 1,515文字
サイキョウさんが逃げるように部屋を出て行った翌日のことです。
サイキョウさんはリリムちゃんに告げた通りに、旅の用意をある程度済ませて、その荷物を持って部屋の前までやってきていました。
部屋を追い出されることになった経緯を思い出して、サイキョウさんは溜息を吐きました。
サイキョウさんが気にしているのはあくまでリリムちゃんの反応が悪かったので言わなければよかったかなという点で、自分の行いそのものではありません。
なぜなら、サイキョウさんからすれば極自然な、当たり前の対応だからです。
見ず知らずの人間の命を身勝手にも奪おうとした連中を寛大にも見逃してあげる対価として、有り金全てを差し出せという要求はむしろ安すぎるくらいだったでしょう。
本来であれば皆殺しでもおかしくはないのです。
だって、彼らもそのつもりだったのですから。
サイキョウさんはそう心中で思った後で、自分の考えを改めて顧みてから、長い溜息を吐きました。
サイキョウさんにとって、人間だろうと動物だろうと虫だろうと、死体であれば同じモノです。
どれもそのまま放置していては汚く、邪魔なモノでしかありません。
ただ、多くの人間にからすれば人間の死体というのは特別なものなのです。
ほかの動物と一緒くたに――言葉は悪いですが――ゴミとして扱うなんてことは普通できません。
そこまで死体に慣れている人間なんて、どんな世界にもそう多くは居ないのですから。
サイキョウさんは部屋の前で、荷物を持ったまま、無言で立ち尽くします。
今後の対応について、懊悩しているのでしょう。
サイキョウさんが黙り込んでからしばらく経って――やがて自分の中で結論が出たのか、肩を落としつつ溜息を吐くと、部屋の扉をノックしました。
ノックの直後には反応がありませんでしたが、ノックの音の余韻が完全に消えた頃になって、部屋の中から声が返ってきました。
その声はまさに寝起きという感じでぼんやりしていて、なおかつ不機嫌さを隠さない低音でした。
サイキョウさんはどう答えるか若干迷ったものの、悩んでも仕方ないかと、そのまま答えます。
サイキョウさんはそう心中で吐き捨てた後で、吐息を一つ挟んでから続けます。
サイキョウさんの言葉への反応として、リリムちゃんのツッコミと共に扉がかなり勢いよく開かれました。