サイキョウさんとリリムちゃん、旅に出る 6

文字数 1,515文字

 サイキョウさんが逃げるように部屋を出て行った翌日のことです。
 サイキョウさんはリリムちゃんに告げた通りに、旅の用意をある程度済ませて、その荷物を持って部屋の前までやってきていました。
(まぁ多少無いものもあるかもしれないが、とりあえずは揃っている、はず。……問題は、お嬢ちゃんの状態だなぁ)
 部屋を追い出されることになった経緯を思い出して、サイキョウさんは溜息を吐きました。
(拒絶反応が強くて同行が無理なら、好きにさせるしかないけど。
 ……途中で投げ出した感が強くなっちゃうから、しばらく尾を引きそうでやだなぁ)
 サイキョウさんが気にしているのはあくまでリリムちゃんの反応が悪かったので言わなければよかったかなという点で、自分の行いそのものではありません。
 なぜなら、サイキョウさんからすれば極自然な、当たり前の対応だからです。
 見ず知らずの人間の命を身勝手にも奪おうとした連中を寛大にも見逃してあげる対価として、有り金全てを差し出せという要求はむしろ安すぎるくらいだったでしょう。
 本来であれば皆殺しでもおかしくはないのです。
 だって、彼らもそのつもりだったのですから。 
(……言い訳をするなら、死体も片付けるついでに売っただけ、なんだけどな。
 というか任せたら売れたって言われただけだし)
 サイキョウさんはそう心中で思った後で、自分の考えを改めて顧みてから、長い溜息を吐きました。
 ……この温度差がダメなんだろうなぁ。
 言うて、相手は子どもなんだから。
(まぁ大人だったら理解するのかって言われると難しいけど)
 サイキョウさんにとって、人間だろうと動物だろうと虫だろうと、死体であれば同じモノです。
 どれもそのまま放置していては汚く、邪魔なモノでしかありません。
 ただ、多くの人間にからすれば人間の死体というのは特別なものなのです。
 ほかの動物と一緒くたに――言葉は悪いですが――ゴミとして扱うなんてことは普通できません。
 そこまで死体に慣れている人間なんて、どんな世界にもそう多くは居ないのですから。
 …………。
 サイキョウさんは部屋の前で、荷物を持ったまま、無言で立ち尽くします。
 今後の対応について、懊悩しているのでしょう。
 サイキョウさんが黙り込んでからしばらく経って――やがて自分の中で結論が出たのか、肩を落としつつ溜息を吐くと、部屋の扉をノックしました。
 ノックの直後には反応がありませんでしたが、ノックの音の余韻が完全に消えた頃になって、部屋の中から声が返ってきました。
 ……どちら様でしょうか。
 その声はまさに寝起きという感じでぼんやりしていて、なおかつ不機嫌さを隠さない低音でした。
(……これ普通に寝起きくせえな。
 こいつがぐうたらなだけなのか、昨日の件が尾を引いてんのかわからんから反応しづれえ)
 サイキョウさんはどう答えるか若干迷ったものの、悩んでも仕方ないかと、そのまま答えます。
 俺だよ、お嬢ちゃん。
 昨日言った通りに荷物を持ってきた。
 ……俺って言われてもわからないんですけどぉ。
(わかっててとぼけてるのか、寝ぼけてるからわからんのか、どっちだこれ。
 ……どっちであったとしても、さっきまで少し真剣に悩んでたのがバカらしくなってくる展開ではあるけどな!)
 サイキョウさんはそう心中で吐き捨てた後で、吐息を一つ挟んでから続けます。
 ちょっと前に王族を騙る頭がちょっとアレな女の子であるところのおまえさんを、親切に保護して宿までとってやった心優しいおっさんです。
 誰の頭がちょっとアレだってのよこらあああ!
 サイキョウさんの言葉への反応として、リリムちゃんのツッコミと共に扉がかなり勢いよく開かれました。
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登場人物紹介

サイキョウさん。主人公。

得意なこと:体を使うこと全般
苦手なこと:異性や子どもとのコミュニケーション

一般的な常識を理解した上で、暴力という解決方法を採ることが多かったりする人。悪人でも善人でもない、俺ルールの行使者。

リリムちゃん。小さい姫さん。略してちいひめちゃん。
得意なこと:虚勢を張ること
苦手なこと:体を使うこと

トラブルメーカーそのいち。
遊興すれば襲われる、街を歩けば攫われるといいことなし。
サイキョウさんの理不尽な扱いにもそろそろ慣れてきた。

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