リリムちゃん、さっそくトラブルに巻き込まれる 1

文字数 1,803文字

 そんなこんなで翌日の朝。
 上等な寝床でぐっすり眠って――眠りすぎて寝坊するということもなく、無事に起床したリリムちゃん。
 しっかりと身支度を整えてから階下にある食事処に向かいます。
 ――お、なんだ。思ったより早く起きたんだなぁ、ちいひめちゃんよ。
 そして、先に集合場所で朝食をとっていたサイキョウさんからそんな風に声をかけられました。
(……この人いつ寝てるのかしら。本当に)
 個人的には随分と早起きをしたほうだと思っていたリリムちゃん。
 密かに、今日こそは先に起きて待っていることになるだろうと思いつつ集合場所に向かっていたのですが、アテが外れて内心で溜息を吐きました。
(なんとも得体の知れない人だこと)
 とは言え、そんなことを正直に口にしたところで仕方がありません。
 リリムちゃんの非常に個人的な思惑というか淡い期待だったというだけで、それ以上の意味もなく。リリムちゃん個人としてもそこまでこだわる理由はないのです。
 まぁそんなことはわかっていても多少鬱憤は溜まるもので。
 ……言ったとおり、寝坊なんてしなかったでしょう?
 そんな些細な鬱憤を晴らすように、リリムちゃんはにやりと笑ってそう言いました。
 昨日の別れ際にサイキョウさんから言われた内容が、地味に気になっていたようです。
 別に寝坊したところで何を言うつもりもなかったんだがな。
 まぁ、早起きが出来るのはいいことだ。おはようさん。
 サイキョウさんはそんなリリムちゃんの心情がわかっているのかいないのか。言われた内容に対して小さく笑みを返すと、止めていた食事を再開しました。
 ……むう。
 サイキョウさんの淡白な反応にリリムちゃんは思わずむくれてしまいましたが、すぐに表情を戻すと、おはようと小さく返してからサイキョウさんの対面にある椅子に座りました。
 リリムちゃんは席につくなりすぐに近づいてきた給仕に二三品注文をしてから、吐息を吐いた後で口を開きます。
 それで、出発日の話なんだけど。
 いつにするんだ?
 三日後にしてほしいんだけど。できる?
 可能な限り、要望に沿うよう努力はしよう。
 ……定期便の手配に一日、準備に一日ってところか。
 まぁ妥当なラインだな。無理な日程じゃないのはいいことだ。
 サイキョウさんの言葉に、リリムちゃんはふふんと少し得意げな表情を浮かべます。
 私にだってちゃんと考える頭はあるんですよ。わかりますぅ?
 ああ、そのようだ。覚えておこう。
 ……むむぅ。
 思ったような反応が得られずに、リリムちゃんは再度むくれ顔を作りましたが、注文した品を給仕が持ってきたのですぐに表情を戻します。
 サイキョウさんはリリムちゃんの表情の変化に小さく笑った後で、話を続けます。
 さて、ちいひめちゃんの希望は聞いた。
 俺はその希望に沿えるように、今日一日は足の手配に努めよう。
 ……ちいひめちゃんはどうするんだ?
 リリムちゃんは給仕に料金を払い、礼を言って見送った後で、サイキョウさんに応えます。
 付いて来いとは言わないのね。
 面白いもんじゃないからな。
 付いて来たいというのであれば止めない。それだけだ。
 街を一人で出歩きたいと言ったら?
 昨日も言ったろ。好きにしたらいい。
 ……まぁ、俺個人としてはオススメしないがね。
 じゃあ、好きにするわ。
 ……夕方までに戻ればいいんでしょう?
 ああ、それでいい。
 それじゃあ、精々注意して出歩くようにな。
 サイキョウさんはそう言って、席を立ちます。
 そして近くを通った給仕に空いた皿を片付けるようにお願いした後で、
 もう一度言うぜ。
 一人で出歩くのは止めないが、気をつけろよ。
 しつこい!
 念を押すように同じ内容を口にして、リリムちゃんから当然のようにうざがられたことに溜息を吐いてから宿屋を出ていきました。
 リリムちゃんは離れていくサイキョウさんの背中に舌を出して、ふんと鼻を鳴らした後で朝食に手をつけます。
 まったくもう。人を何だと思ってるのよ、あいつはっ。
 ちゃんと帰ってこれるっての。
 ――あ、おいしいこれ。
 呟くようにそう言ってから、リリムちゃんは朝食を平らげた後で、サイキョウさんと同じように宿屋を出ました。
 ――そして、その夜。
 ……案の定帰ってこねえな、あのクソガキ。
 自分の分の夕食を食べ終えても姿を見せないリリムちゃんの行方を思って、サイキョウさんはそう言いながら溜息を吐きました。
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登場人物紹介

サイキョウさん。主人公。

得意なこと:体を使うこと全般
苦手なこと:異性や子どもとのコミュニケーション

一般的な常識を理解した上で、暴力という解決方法を採ることが多かったりする人。悪人でも善人でもない、俺ルールの行使者。

リリムちゃん。小さい姫さん。略してちいひめちゃん。
得意なこと:虚勢を張ること
苦手なこと:体を使うこと

トラブルメーカーそのいち。
遊興すれば襲われる、街を歩けば攫われるといいことなし。
サイキョウさんの理不尽な扱いにもそろそろ慣れてきた。

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