リリムちゃん、さっそくトラブルに巻き込まれる 2
文字数 1,751文字
サイキョウさんとの約束した時間に宿屋に戻れなかったリリムちゃん。
いったいリリムちゃんの身に何が起こったのか。
今日一日のリリムちゃんの行動を振り返ってみましょう。
朝食を食べた後で宿屋を出たリリムちゃんが向かったのは、街の中心部でした。
宿屋の店員から事前に聞きだしておいた色々な店を回るためです。
旅に必要なものを買い揃えるのが主目的――ではありません。
先日までの移動で消費した消耗品等を補給することは必須であり、リリムちゃんも当然そのことは認識しています。
しかし、今日一日だけは、街と街を繋ぐ定期便に揺られている間に芽生えた、おいしい食事に対する欲望を満たすことこそが目的でした。
王族の物見遊山であれば、周囲の人間が勝手に、快適に過ごしてもらおうと努力することでしょう。そして、用意される移動手段も食事も上等なものだったことでしょう。
しかし、庶民が使う定期便であれば話はまったく異なります。
一般に使われる定期便は、足を提供するだけのものでしかありません。
移動の間に使用する消耗品は全て自前で用意するのが当たり前でした。
水などの生きるために必須とも言えるものは道中で確保できるように行程は考慮されていますが、言ってしまえば提供されるのはそれだけです。
食事は当然保存のきくものが殆どとなり――それらはとてもおいしいと言えるものではありませんでした。
普通の人でもそう感じるそれらの食事を、舌の肥えたリリムちゃんが食べ続ければどうなるか。考えるまでもありません。
妙に食い意地の張ったお嬢様になってしまったリリムちゃん。
その欲望の赴くままに、様々な店で話を聞きながら、商品を買っては食べてを繰り返して品定めを続けていきます。
来た事のない場所。
おいしい食べ物。
一人で行動できる解放感。
それらの要素が揃っていたせいか、リリムちゃんは気付くことができませんでした。
自分の行動が、私は裕福な人間ですよと言っているも同然だということに。
そんな行動が誰かの目を引いて当然だということに。
そして、容姿の整っている子どもが一人で行動していることの危うさに。
一日の殆どを買い食いに費やして。
食欲が満たされたせいか、若干冷静になったリリムちゃんは自分の両手に持った今日の成果を見てからそんな言葉を呟きました。
誰よりも自分に言い聞かせるように、呟きを追加してから頷いた後で、リリムちゃんは宿屋に向かう足を速めました。
そろそろサイキョウさんとの約束の時間だからです。
しかし、リリムちゃんが宿屋に辿り着くことはありませんでした。
声をあげる暇もなく。
リリムちゃんは雑踏の中から路地裏へと引き込まれてしまったからです。
とは言え、抵抗を全くしなかったかと言えばそんなことはありません。
リリムちゃんは自分を引き込んだ誰かの手から逃れるために、手足を必死に動かしてもがきます。
リリムちゃんを捕まえた誰かはそう言うと、リリムちゃんの視界を塞ぐように札をぺたりと貼り付けました。
突然視界を奪われて驚きに声をあげようとするリリムちゃんでしたが、言葉は続かず、体から力が抜けていくのと同時に意識が遠のいていきます。
遠くなる意識を繋ぎとめることができないリリムちゃんは、意識が途切れる寸前でそんな悪態を吐いてから気を失いました。