サイキョウさん、新しい住居で夜を過ごす 2
文字数 1,841文字
知り合いへの対応を考えながら新居の扉を開いたサイキョウさんでしたが。
扉を開いた先に待っていたのは、誰も居ない空間――ではなくて。
リリムちゃんたちが居た屋敷からサイキョウさんよりも先に立ち去ったアンリさんの、小さな笑みを浮かべながら出迎える姿がそこにありました。
ただ、サイキョウさんはアンリさんが居ることを予想していたようで。特に驚いた様子もなく言います。
アンリさんはサイキョウさんの物言いには慣れているので、気軽な調子で応じます。
アンリさんはそれはそれは楽しそうな笑みを浮かべながら続けます。
サイキョウさんはアンリさんの言葉を聞いて、おかしくてたまらないと笑い出しました。
アンリさんもサイキョウさんの笑い声につられるように笑みを少し深めた後で、言葉を続けます。
そしてそう言うと、アンリさんはサイキョウさんに背を向けて、家の奥に向かって歩き出そうとした――のですが。
その背中を止めるように、サイキョウさんが言葉を繋げます。
サイキョウさんの質問に、アンリさんは足を止めると、首だけを傾けて振り返りながら言います。
そう聞くアンリさんの表情に浮かぶのは、単純な疑問符です。
サイキョウさんはその疑問符に答えるように言葉を作ります。
単純な話さ。何でおまえさんらはそんなに好意的な姿勢を見せるのかがわからないって、そういう話でな。
……俺は使えるものなら何でも使う性質だから、遠慮なく頼らせてもらっているがね。それに対する対価は、その殆どがささやかなもんだ。
だから、普通の人間であるところの俺はたまにこう思うわけだ。
おまえさんらはいったい何を考えて、俺に付き合ってるんだろうな、と。
サイキョウさんが告げた疑問に、アンリさんはああと何か納得した様子で頷いた後で、なんでもないことを言うような気軽さで答えます。
それは、別段難しい話ではありませんよ。
――私たちはそれなりに強いせいで、自らの承認欲求を満たす機会に乏しいのです。
天使であれば神が在るのでしょうが。
私たち悪魔にはそういうものはない。
だからこそ、あなたのような存在を有り難がるのです。
サイキョウさんはアンリさんの返答を聞いて、なるほどな、と納得したような表情で頷いてから言います。
サイキョウさんとアンリさんはそんな言葉を交わしながら、互いに口端をつり上げるような笑みを浮かべました。
それから、少しの間だけ沈黙が降りて。
アンリさんはサイキョウさんから視線を外すと、家の奥に向かって歩き出します。
そしてそんな会話を交わしながら、サイキョウさんもアンリさんの後を追うように、家の奥へと進んでいくのでした。