02:私とはじめての共同作業的な(ゴニョゴニョ) ※1/26大幅修正・加筆

文字数 2,500文字

ねえ。お砂糖の人形を作ったのだけれど、どうかしら?
えっ?
 衝撃的だった。ミユちゃんが見せてくれたのは、ケーキの上に乗っているような砂糖菓子の人形。珍しくもないやつだけど、私には衝撃的だった。
(私はスポンジケーキを可愛く飾り付けることばかり考えていたのに、ミユちゃんは私とミユちゃんそっくりの人形を作った)
 多少凸凹はしていたけど、たしかに私とミユちゃんだとわかる、可愛いお人形。負けた、と思った。
ミユちゃんの指にはたくさん絆創膏が巻いてあって、不器用なくせに凄い努力しているんだなぁとも思った。

(私も負けてらんない!)



          ☆★☆★



 中学生になった頃には、ケーキ、パフェ、プティングなど、お店のスイーツをいくつか作れるようになったよ。私やミユちゃんのスイーツが時々ショーケースに並んだりして、誇らしくもあったんだ。

わー、夏木さんって料理上手なんだねー

これは将来、大物になりますなぁ。

今のうちに、サインをプリーズプリーズ

 とか、調理実習になるとクラスメートからも褒められて、嬉しかった。
 そして、中3の春。
ねぇ紗彩。アマチュア限定のスイーツコンテストがあるのだけれど、出てみないかしら?
アマゾネス限定のスイーツコンテスト……?

どんな聞き間違いしたらそう聞こえるのよ!? 逆に行ってみたいじゃない!!


じゃなくって! ア・マ・チュ・ア限定のスイーツコンテスト!!

アマチュア限定のスイーツコンテスト?
予選は自作したスイーツの写真を送って、審査してもらうらしいわ。本戦に出場すると、イベント会場でスイーツを作り、たくさんのお客さんに投票してもらえるみたい。優勝すると、プロのパティシエールさんの弟子になれるんですって。
プロのパティシエールって。ユキさんがプロなんだから、私たち、もう弟子みたいなもんじゃん
ユキさんとは、ミユママのこと。
そうだけど、面白そうだとは思わない? いずれプロになる私たちにとって、貴重な経験値稼ぎの場でもあるわ
う~ん……経験値稼ぎかぁ
(ちょっと楽しそう……かも? それに、たくさんの人に美味しいって褒められたら、絶対気持ちいいし)
わかった。やろっか。一緒に本戦行こうね!
ええ

(やったわ! 紗彩と一緒に、はじめてのイベント参戦!

面白くなってきたじゃない♪)

それでなんだけど……ユニットを組むのもありらしいの。

だから、その……私とはじめての共同作業的な(ゴニョゴニョ)

本戦ではミユちゃんともライバルだね。

負けないよっ!

えっ……?

ええ、そうね。私も負けないわ……

(一緒にユニットとして出るつもりだったのだけれど。

まあいいわ。一緒に参戦できるだけ、よしとしましょう)

 こうして私が作ったのは、春をイメージした桜のミルクレープだった。一番上の層は桃色のゼリーで、花びらをイメージした梅を散らして。クレープ生地の間には、桜のクリームも挟んだ。

 さらにその上から、メロン味のソースもかけている贅沢な一品。

可愛い~
夏木さんって、本当に器用なんだねぇ

そうでしょそうでしょ♪

名付けて、「桜と梅とメロンの春ミルクレープ」だよっ!!

 クラスメートたちに味見してもらったら、好評で。
(優勝したら、私がネットのニュースにも出ちゃうかも!? そしたら、ユキさんのお店に私のファンが来ちゃったりして♪ お店がもっと盛り上がったら、ユキさんも喜んでくれるかなぁ??)

(それからそれから、私のスイーツを食べた人が、いっぱい笑顔になって。

ふふ、ユキさんみたいにみんなを幸せにさせちゃうパティシエールに、一歩近づいちゃう♪)

 その頃の私は、食べた人を笑顔にさせていくユキさんのことを、かっこいいと思っていた。だからユキさんみたいになりたくて、妄想が膨らんでいったよ。だけど、私は――


――予選落ちした。

見て見て紗彩! 私、予選通ったわ! ほら!
 ミユちゃんは当選結果ページを、スマホで見せてくれた。そこに載っているミユちゃんのスイーツは、チョコメロンパフェ

 三段重ねのコーンに乗せた、濃厚ミルクアイス。その上に添えられているのは、キューブ型のガトーショコラ。さらに、猫の顔をイメージした可愛いメロンアイスと、クラシックショコラを固めて作ったメイド人形さん。メイド服というのは「ハルカゼ」の制服で、それを着ているのはユキさんだった。

 最後に、チョコレートソースと、メロン味のソースをかけました❤ という一品。


このパフェ、ウチにもメニューとして出してもらえることになったの!

本戦に出せば、宣伝にもなるわよねっ!

……そう
そういえば紗彩はメロンが好きだったわよねっ!

それでなんだけど、今度味見してみてくれないかしら? メロン好きとしての感想を聞きたいのだけれど!

メロン好きの意見なんて、参考にならないよ
(……? なにか、暗いわね)

(はっ……!

ま、まままま、まさか……)

……紗彩。

まさか、あなた…………予選、落ちたの?

………………

(ええええ~~~~。

ど、どどどどうしましょう? 私ばかり舞い上がって、紗彩を傷つけた?

なんとかフォローしなきゃっ。そうだ! アドバイスしてみたら、どうかしら??)

(ミユのスイーツはとても綺麗で、形が整っていた。味もかなりのレベル。だけど、予選は写真を送るだけだから、味は伝わらないわね。写真の撮り方が悪かった可能性もあるけど、他に考えられるのは……)
……大丈夫よ。あなたのスイーツだって綺麗だったわ。でも、梅は余計だったかもしれないわね。梅で作った花びらが多すぎて、桜のクレープなのか梅のクレープなのかわからなくなっていたもの

それに、春をイメージしているのに、桜とメロンを共存させたのも、かえってそれぞれの良さが打ち消し合っちゃったのかも。まあ、紗彩のスイーツが美味しいのは事実なのだし、反省して、次は主張を絞ったスイーツにすればいいと思うわ
(確かに、私はミユちゃんに負けたくない一心で、あれもこれもと詰め込みすぎたのかもしれない。豪華なのはミユちゃんのチョコメロンパフェも同じだけど、私のは主張が相殺し合っちゃっている)
 その事実をミユちゃんに突きつけられたことが、私にはショックだった。
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登場人物紹介

夏木紗彩(なつきさあや) 高2


夢を諦めた少女。幼い頃からパティシエールに憧れていたが、幼馴染のミユに実力差を見せつけられ、心が折れた。今はコンビニやお店のスイーツをレポする動画「紗彩チャンネル」を運営。そこそこ人気でお小遣い稼ぎにはなっているが、一方で夢を追うキラキラした人たちに嫉妬していて、いつもどこか不満げ。夢を諦めた瞬間から、スイーツの幻影が見えるように。

春風ミユ 高2


夢を本気で追う少女。紗彩の幼馴染で、実家は人気スイーツ店「ハルカゼ」。幼い頃からパティシエールを目指し修行している。スイーツへの情熱が凄い。一方で、本気で努力せず「できない」と口にする人の気持ちが理解できず、女子とは喧嘩になりやすい。そのため、紗彩以外の友だちがいない

クリームの声が聞こえるらしい。

氷崎マオ 高2


夢を応援できる少女。いつもゲーセンで遊んでばかりの帰宅部。友達も多く、リア充。勉強もちゃんとするし、成績は平均より少し上程度。なんでもそこそこにこなせるけど、特別得意なことがあるわけではなく、夢を持っているわけでもない。だから、学生でありながら好きなことで金を稼ぐ紗彩が羨ましくて、それなのになぜ不満を抱いているのか、理解できずにいる。

冬兎チユキ 高2


夢追い人を尊敬し、夢を持ちたい少女
今が楽しければそれでいいじゃん、という考えで適当に生きている。甘いもの大好き、紗彩の動画もチェックしている。普通の女子高生。ミユには嫌われている。

アーニャ 20歳


夢のために他を犠牲にした女。売れない大道芸人。好きなこと以外はやりたくない。だけど、好きなことのためならなんでもする。様々な芸をこなし、歌もダンスもモノマネも出来るし、はやりのネタにはすぐに飛びつく。夢のために高校を中退している。努力家。


黒井先生 


夢を追い別の道にたどり着いた大人。主人公たちの担任にして、体育教師。かつてはプロ野球選手になりたいという、平凡だが大きな夢を抱いていた。レギュラーにもなれず夢に破れてからは、応援してくれた監督に感謝し、彼のような教師になりたいと考えた。必死に勉強し、今の立場にある。


スイーツの幻影


紗彩にだけ見える。「夢を諦めて本当にいいの?」「後悔してない?」と、事あるごとに語りかけてくる。

クリームの幻聴


ミユにだけ聞こえる。心の迷いを表しているらしい。

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