03:やぁ。僕はスイーツの精霊だよ ※1/26大幅修正・加筆
文字数 1,997文字
(不器用で、ずっと私の後を追いかけるばかりだったミユちゃんが、いつのまにかもう、私のずっと上にいる)
(あれ? 反応がないわね。
逆効果だったのかしら……(´・ω・`))
(紗彩の腕は確かよ。要領の良さ、物覚えの良さ。そういうのは私より上。だから、紗彩は必ずいいパティシエールになれる。私ももっと頑張って、いつか2人でお店をやっていくの。そのために、アドバイスしたつもりなんだけれど……)
結局、ミユちゃんは優勝できなかった。できなかったけれど、お客さんたちから高評価を受け、3位のスイーツに選ばれた。
本選出場者
120名中の、3位だよ。私はその120名の中にすら、いなかった。
沈んでいた私の心に、追い打ちをかけるような現実だった。
凄いよね! やっぱりパティシエールの娘は違うね~❤❤
いつのまにか、クラスメートたちもミユちゃんのことしか誉めなくなっていた。
その時、私は思ったんだ。
(ミユちゃんの才能は本物なんだ。私だって頑張ったのに、勝てなかった。私は……
私は……! ミユちゃんには、勝てない!!)
私はミユちゃんの人気と才能と結果に嫉妬したんだ。我ながらかっこ悪いとは思ったけど、その日を境に私はパティシエールの夢を諦めて。そして――。
紗彩? 最近、ウチに来てくれないけど、どうしたの? また一緒にスイーツの勉強しましょう?
そして――ミユちゃんのことも避けるようになった。
その日からだ。
やぁ。僕はスイーツの精霊だよ。ねぇ紗彩。
君、パティシエールの夢を諦めて本当にいいの?
スイーツの精霊を名乗る幻影が現れ、私に話しかけてくるようになったのは。
ミユはすごく努力していたんだよ。凄いのは当然さ。君は彼女ほど努力したの? もっと頑張ってみなよ
一度じゃ、ないもん。ほんとは気づいてた。ミユちゃんの方が凄いスイーツを作れるって……
なら、もっと努力をすればいい。あの子は、そうしてきた
ああ、そうか君は怖いんだ。努力をしても、あの子の努力と結果に負けるかもしれない。自分の努力が意味のないものになってしまうのが、たまらなく怖いんだ
でも君は、スイーツ作りが好きだ。
好きなことから逃げて夢を諦めても、幸せにはなれない。なにより、これでは
ミユのことを直視できなくなる。
ねえ?
ねえったら。無視しないでよ。
ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ
ああああああああああ!
うるさいうるさい! なにをどうしようが、私の勝手だ!
私はケーキの幻影を殴った。殴ったのは、洗面台の鏡だったよ。
ひび割れた鏡には、私しか写っていない。私は血だらけの拳を握りしめる。
スイーツの精霊は、私の心が生み出した幻影だ。
(私が本当はパティシエールを諦めたくないから、幻影が現れたんだ。
やめたら後悔する? だからって、勝てない勝負を続けられるほど、私は強くない)
私は怖かった。
努力が報われないことも、才能の差を思い知らされるかもしれないのも。
そしてなにより。
ミユちゃんに突き放されて、置いていかれてしまうのが。
(私はユキさんみたいに、食べた人をスイーツで笑顔にさせたかった。だけど、それを果たせたのは、ミユちゃんの方だった。この先、ミユちゃんはみんなに求められるようになっていく。その時、私はミユちゃんの隣にはいないかもしれない)
(だから私は、ミユちゃんとはいられない。パティシエールの夢も、追いかけられない)
そう考えると、決まってスイーツの精霊が現れて、言うんだ。
(そんなこと、わかってるよ。ミユちゃんは生まれたときから一緒の私以外とは、あまり話せない。人付き合いが苦手な、不器用な子なんだ。
ミユちゃんはきっと、私が嫉妬していることを打ち明けても、一緒にいてくれる。でも、ミユちゃんが結果を出せば、必ず、距離は開かれていく。
その現実に、私は耐えられない。ミユちゃんの夢を、私は応援できない。だから、ごめんねミユちゃん、私は弱い女の子だったよ)
――
――――。
2年後。
この物語は、同じ高校に通う2年生である私とミユちゃんと、その他数人。夢を追う人と、諦めた人、応援する人たちの物語だよ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)