05:幼馴染ちゃんのお店、やばいぜ?  ※1/2大幅修正・加筆

文字数 954文字

(相変わらず、無愛想な顔してるなぁ。

もともと私以外とはあまり話さない、人付き合いに無頓着な性格だったけど、加速してるような……。
まあ、美味しいケーキ作れる腕があるんなら、関係ないのかな)

(そう、関係ない。
もうミユちゃんのことなんて、私には関係ない。とっととコンビニで、スイーツ買い足しちゃおう)


          ★☆★☆



 けれど、数日後。
 事件は起こった。

 教室。朝のホームルーム前。
ねえねえ、観た?
あゆゆんの動画。
観た観た! 「ハルカゼ」のやつでしょ?
やばいよねー!
(あゆゆん? それって、YouTuberの?)
 あゆゆん。
 私と同じスイーツレビュー系の動画を上げる男性YouTuber。最近現れた新参者だけど、女子ウケしそうな可愛い顔立ちの少年だからか、急速にチャンネル登録者数を増やしているよ。
 しかも、私と同じ学校の生徒で、一個上の先輩。つまり、高3。それで毎日動画を上げているから、この時期に受験勉強しなくていいの? と心配になる。

(ライバルだからチェックしてるけど、私はあんまキョーミないんだよね。そういえば、昨日の動画はまだ観てなかったかも)

(同じ学校の先輩だからか、妙にウチのクラスにはファンが多いんだよね。

まあキョーミないけど。ないけど……「ハルカゼ」って言ったよね。そっちはちょっと気になるかも)

 私は頬杖をつきながら、近くの席で談笑するクラスメートの話に、聞き耳をたてる。
はい皆さん席についてー。ホームルームはじめますよー
やばっ。席戻んなきゃっ
(ああっ、もう。バッドタイミング。黒井先生は空気読まないなぁ)


 そして、一時間目後の休み時間。
おーっす相棒! みんなのお姉ちゃん、マオ姉だぜ!!
おはよ、マオネエ。堂々と遅刻だね

カタカナでオネエって書くのやめてくんね?

アタシちゃんと女だからな?

ってそんなことより!

サヤサヤ。オマエの幼馴染ちゃんのお店、やばいぜ?

 と、友達の氷崎マオが言った。
やばい?
 ちらり、ミユちゃんを見る。
 いつも通りの無表情で、誰とも会話せず、教科書を手に予習中。
 そこそこ友達のいる私と違って、今のミユちゃんには友達がいない。「ハルカゼ」の娘で、スイーツ作りが上手くて、同じ中学の娘も多いから私の幼馴染ということも知られているのに、友達がいない。
…………
 なぜなら。
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登場人物紹介

夏木紗彩(なつきさあや) 高2


夢を諦めた少女。幼い頃からパティシエールに憧れていたが、幼馴染のミユに実力差を見せつけられ、心が折れた。今はコンビニやお店のスイーツをレポする動画「紗彩チャンネル」を運営。そこそこ人気でお小遣い稼ぎにはなっているが、一方で夢を追うキラキラした人たちに嫉妬していて、いつもどこか不満げ。夢を諦めた瞬間から、スイーツの幻影が見えるように。

春風ミユ 高2


夢を本気で追う少女。紗彩の幼馴染で、実家は人気スイーツ店「ハルカゼ」。幼い頃からパティシエールを目指し修行している。スイーツへの情熱が凄い。一方で、本気で努力せず「できない」と口にする人の気持ちが理解できず、女子とは喧嘩になりやすい。そのため、紗彩以外の友だちがいない

クリームの声が聞こえるらしい。

氷崎マオ 高2


夢を応援できる少女。いつもゲーセンで遊んでばかりの帰宅部。友達も多く、リア充。勉強もちゃんとするし、成績は平均より少し上程度。なんでもそこそこにこなせるけど、特別得意なことがあるわけではなく、夢を持っているわけでもない。だから、学生でありながら好きなことで金を稼ぐ紗彩が羨ましくて、それなのになぜ不満を抱いているのか、理解できずにいる。

冬兎チユキ 高2


夢追い人を尊敬し、夢を持ちたい少女
今が楽しければそれでいいじゃん、という考えで適当に生きている。甘いもの大好き、紗彩の動画もチェックしている。普通の女子高生。ミユには嫌われている。

アーニャ 20歳


夢のために他を犠牲にした女。売れない大道芸人。好きなこと以外はやりたくない。だけど、好きなことのためならなんでもする。様々な芸をこなし、歌もダンスもモノマネも出来るし、はやりのネタにはすぐに飛びつく。夢のために高校を中退している。努力家。


黒井先生 


夢を追い別の道にたどり着いた大人。主人公たちの担任にして、体育教師。かつてはプロ野球選手になりたいという、平凡だが大きな夢を抱いていた。レギュラーにもなれず夢に破れてからは、応援してくれた監督に感謝し、彼のような教師になりたいと考えた。必死に勉強し、今の立場にある。


スイーツの幻影


紗彩にだけ見える。「夢を諦めて本当にいいの?」「後悔してない?」と、事あるごとに語りかけてくる。

クリームの幻聴


ミユにだけ聞こえる。心の迷いを表しているらしい。

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