10:つまり、そういうことでしょ ※1/26大幅修正・加筆

文字数 1,711文字

いや~~、恐ろしいキャットファイトだったなぁ。

ワクワクしちまったぜ

私が言うのもアレだけど、マオちゃんもちょっと変わってるよね……
ま、ともかくだ。

アタシは信じるぜ。サヤサヤの幼馴染ちゃんは、虫なんかいれねぇって

……マオちゃんは昨日、動画信じてたじゃん
ん~~? そうだっけ?
まあ、今は信じてねえってことで
相変わらず適当だなぁ、マオちゃんは

そう褒めんなって!

照れんだろ

褒めてません
 けれど、この適当さがマオちゃんの悪いところであり、良いところでもあるよ。よく考えて喋らないけど、細かいことを気にしないし固執もしない。つまり、わりとさっぱりした性格?
 そして、マイペース。友達の家に来て、一人で漫画を読み始めるようなタイプ。だけど、みんなでゲームやろう!となれば参加してくれるし、それなりに楽しんで盛り上げてくれる。
 マオちゃんとは中学で出会い、なんとなく一緒にいやすいから、今日まで友達として付き合っているよ。思ったことを正直に言ってくれたりもするから、動画の感想をもらったりもしている。


 適当でマイペースなんだけど、楽しむことに全力で、だからこそ敵を作らないかんじ?

けどよ。人柄とケーキの腕は別にしても、店の評判と人柄は別って言い切れねぇよな。あれじゃ、ミユミユのこと誰もフォローしねぇもわかるよ
……

で?

オマエはフォローしてやんねぇの?

別に……
(頑張っているミユちゃんがデタラメな悪評を受けていて、腹が立った。だけど、時間がたってみて、今度はその事実とは別の意味で、ムカムカしている私がいる)

(悪評が立つのも、アンチがいるのも、注目されているからだよ。良くも、悪くも……。

私だって、パティシエールを目指していたんだよ。当時はみんな、私のことも話題にしてくれて。だけど、もう、中学の頃までの私を知る人でさえ、私がケーキを作っていたことを忘れているんだ)

(話題にされることがあったとしても、せいぜい、YouTuberとしての私だ。ケーキを食べて、レポするだけの私。この感情はなに……? どうして、こんなにムカムカ、モヤモヤするの?)
(まさか………私はまだミユちゃんに、嫉妬してる……?
……どうして。もう、パティシエールなんてどうだっていいのに……)
わかってるんじゃない?
それは、君がパティシエールの夢を諦めてないからだよ
(また、自称精霊さん?)

本当は今だって、君はパティシエールになりたいと思っている。甘くて美味しいスイーツを作って、ユキさんや、みんなをハッピーにさせる。そんな楽しいお仕事がしたいと思っている。

だから、君は自分を差し置いて、パティシエールとして話題にされるミユが羨ましいんだ。自分の好きなことをまっすぐ貫ける彼女が、羨ましいんだ。

まったく、ハッピーじゃないことにね

……っ
最悪なのは、みんながYouTuberではない君に無関心なことさ。無関心とは、知られないことだからね。逆にアンチがいるということは、それだけパティシエールとしてのミユが知られているということ
YouTuberではなく、ケーキを作る紗彩に対してのアンチは存在しない。だから、ミユに嫉妬しているんだ。叩かれることも、それに振り回されることすらも、君にとっては羨ましいことなんだ
(ち、違う……私は……)

パティシエールなんて、どうでもいい?

なら、どうしてそんなにムカムカしてるんだい?

(注目……そう。注目されたいだけ。パティシエールとかじゃなくって)

AHAHAHAHAHA!

こいつは面白い。君はもう、YouTuberとしてはそこそこ注目されてるでしょ?

それに、だとしたら嫉妬の相手が違う。YouTuberとしてこのクラスにもファンを持つ、あゆゆんに対して嫉妬するべきだ

なのに君は、パティシエールを目指すミユに嫉妬している。つまり、そういうことでしょう
言ったじゃないか。夢から逃げても、幸せにはなれない、と。

君は夢をもう一度、追いかけるべきなんだ

……
おい、どうしたんだサヤサヤ?
……なんでもない
オマエ、やっぱりまだ……
……なに?
……いや、なんでもねぇよ
……ありがと

ああ。

なんのお礼か、知らねえけどな

 深くは突っ込まない。そこも、マオちゃんの良いところだよ。
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登場人物紹介

夏木紗彩(なつきさあや) 高2


夢を諦めた少女。幼い頃からパティシエールに憧れていたが、幼馴染のミユに実力差を見せつけられ、心が折れた。今はコンビニやお店のスイーツをレポする動画「紗彩チャンネル」を運営。そこそこ人気でお小遣い稼ぎにはなっているが、一方で夢を追うキラキラした人たちに嫉妬していて、いつもどこか不満げ。夢を諦めた瞬間から、スイーツの幻影が見えるように。

春風ミユ 高2


夢を本気で追う少女。紗彩の幼馴染で、実家は人気スイーツ店「ハルカゼ」。幼い頃からパティシエールを目指し修行している。スイーツへの情熱が凄い。一方で、本気で努力せず「できない」と口にする人の気持ちが理解できず、女子とは喧嘩になりやすい。そのため、紗彩以外の友だちがいない

クリームの声が聞こえるらしい。

氷崎マオ 高2


夢を応援できる少女。いつもゲーセンで遊んでばかりの帰宅部。友達も多く、リア充。勉強もちゃんとするし、成績は平均より少し上程度。なんでもそこそこにこなせるけど、特別得意なことがあるわけではなく、夢を持っているわけでもない。だから、学生でありながら好きなことで金を稼ぐ紗彩が羨ましくて、それなのになぜ不満を抱いているのか、理解できずにいる。

冬兎チユキ 高2


夢追い人を尊敬し、夢を持ちたい少女
今が楽しければそれでいいじゃん、という考えで適当に生きている。甘いもの大好き、紗彩の動画もチェックしている。普通の女子高生。ミユには嫌われている。

アーニャ 20歳


夢のために他を犠牲にした女。売れない大道芸人。好きなこと以外はやりたくない。だけど、好きなことのためならなんでもする。様々な芸をこなし、歌もダンスもモノマネも出来るし、はやりのネタにはすぐに飛びつく。夢のために高校を中退している。努力家。


黒井先生 


夢を追い別の道にたどり着いた大人。主人公たちの担任にして、体育教師。かつてはプロ野球選手になりたいという、平凡だが大きな夢を抱いていた。レギュラーにもなれず夢に破れてからは、応援してくれた監督に感謝し、彼のような教師になりたいと考えた。必死に勉強し、今の立場にある。


スイーツの幻影


紗彩にだけ見える。「夢を諦めて本当にいいの?」「後悔してない?」と、事あるごとに語りかけてくる。

クリームの幻聴


ミユにだけ聞こえる。心の迷いを表しているらしい。

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