32:プリンケーキ

文字数 835文字

 というわけで、放課後。
あの、今日もバイトしていいかな?
もちろんよ。私はどうにかして紗彩を引き入れるつもりだったから、あなたから言ってきてくれて助かったわ
 というやりとりがあり、またまた「ハルカゼ」でスイーツ作り。もちろんユキさんもオーケーしてくれたよ。
紗彩ちゃんはもう一人の娘みたいなモンなんだから、遠慮しないでいいのよ

なんなら、私のことママって呼んでもいいのよ♥♥♥
 なんて、ぎゅぎゅーっとされて
それはさすがに……
もう、照れなくていいのに♥♥♥
ちょっとお母さん!

くっつきすぎよ!!

あらあら、ミユってばやいてるの?
なっ、ち、ちがっ……
ならもっとぎゅ~しちゃおっと
~~~~~~!!
 と、いっぱい撫でられてハグされた。
 そんなわけで、今日はプリン味のケーキを焼いたよ。
 調理過程を動画にして配信する許可も貰ったから、生放送で大公開。
(YouTuberとパティシエールの両立って、結局どうしたらいいのかわかんないけど。
とりあえずやってみるっていうのも、手だよね?)

(正直まだ不安はあるけれど、こうしてスイーツを作るのはやっぱり楽しいし。

スイーツを作っている間は、あのうざい幻影も現れないし)

というわけで今回は「ハルカゼ」の厨房から、私がプリンケーキを作っちゃいます。
使用するのは、バター、グラニュー糖、卵、牛乳、砂糖、バニラエッセンスに――
 プリンケーキ。
 それは、スポンジ層の上にプリンが乗ったケーキのこと。「ハルカゼ」のプリンケーキでは、スポンジ層とプリン層の間にチョコ生地層が挟まっていて、さらにプリン層の上にもたっぷりの生クリームとフルーツまで乗っている。
 超贅沢な一品だよ。
レシピを公開しちゃって、大丈夫なの?
 事前に聞いてみたところ
問題ないわ。レシピ通りやれば誰でも作れるわけではないし、1つや2つくらいなら、むしろレシピを公開して話題にしちゃうのもアリだと思うわ
ユキさんも同じ考え?
もちのろん
 だってさ。
 だから、私はクッキング動画にしてレシピも公開しちゃう。
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登場人物紹介

夏木紗彩(なつきさあや) 高2


夢を諦めた少女。幼い頃からパティシエールに憧れていたが、幼馴染のミユに実力差を見せつけられ、心が折れた。今はコンビニやお店のスイーツをレポする動画「紗彩チャンネル」を運営。そこそこ人気でお小遣い稼ぎにはなっているが、一方で夢を追うキラキラした人たちに嫉妬していて、いつもどこか不満げ。夢を諦めた瞬間から、スイーツの幻影が見えるように。

春風ミユ 高2


夢を本気で追う少女。紗彩の幼馴染で、実家は人気スイーツ店「ハルカゼ」。幼い頃からパティシエールを目指し修行している。スイーツへの情熱が凄い。一方で、本気で努力せず「できない」と口にする人の気持ちが理解できず、女子とは喧嘩になりやすい。そのため、紗彩以外の友だちがいない

クリームの声が聞こえるらしい。

氷崎マオ 高2


夢を応援できる少女。いつもゲーセンで遊んでばかりの帰宅部。友達も多く、リア充。勉強もちゃんとするし、成績は平均より少し上程度。なんでもそこそこにこなせるけど、特別得意なことがあるわけではなく、夢を持っているわけでもない。だから、学生でありながら好きなことで金を稼ぐ紗彩が羨ましくて、それなのになぜ不満を抱いているのか、理解できずにいる。

冬兎チユキ 高2


夢追い人を尊敬し、夢を持ちたい少女
今が楽しければそれでいいじゃん、という考えで適当に生きている。甘いもの大好き、紗彩の動画もチェックしている。普通の女子高生。ミユには嫌われている。

アーニャ 20歳


夢のために他を犠牲にした女。売れない大道芸人。好きなこと以外はやりたくない。だけど、好きなことのためならなんでもする。様々な芸をこなし、歌もダンスもモノマネも出来るし、はやりのネタにはすぐに飛びつく。夢のために高校を中退している。努力家。


黒井先生 


夢を追い別の道にたどり着いた大人。主人公たちの担任にして、体育教師。かつてはプロ野球選手になりたいという、平凡だが大きな夢を抱いていた。レギュラーにもなれず夢に破れてからは、応援してくれた監督に感謝し、彼のような教師になりたいと考えた。必死に勉強し、今の立場にある。


スイーツの幻影


紗彩にだけ見える。「夢を諦めて本当にいいの?」「後悔してない?」と、事あるごとに語りかけてくる。

クリームの幻聴


ミユにだけ聞こえる。心の迷いを表しているらしい。

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