55:それしかないから

文字数 753文字

 教室を出ると、廊下にミユちゃんが立っていたよ。ミユちゃんは私を見るなり、小さく微笑んだ。
紗彩、一緒に帰りましょ
うん!
 私が隣に並ぶと、ミユちゃんは少し早足気味に歩き出す。ミユちゃんの歩幅に合わせて進むのは、私の役目。小さい頃から、そうだった。
ねえ
 昇降口に差し掛かると、ミユちゃんが私の方を向いた。
紗彩は、どうしてスイーツを作るの?
ど、どうして……?
(好きだから作る、としか言えないんだけど。じゃあどうして好きなの? と聞かれたら、なんて答えるべきなのかな)
ユキさんの影響?
 ぱっと出た答えは、それだったよ。

(ユキさんが楽しそうにスイーツを作り、それを食べるお客さんの楽しそうになる姿を見てきたから。

思えば、きっかけはソレだった気がする)

(そうだ。ユキさんの仕事ぶりを見て、私もお母さんにスイーツを作って食べさせたいと思って……)
それはきっかけでしょう。今あなたがスイーツを作りたいと思う理由
今……
 ミユちゃんが外履きに履き替える。私も靴を履いて、2人並んで校舎の外へ出る。

パフォーマンス、するのでしょう?

それは何故? どうして、またスイーツを作ろうと思い直したの?

それは……
私がスイーツを作る理由はね、それしかないからよ
それしかないって、そんなことないと思うけど
私がスイーツを作っていなかったら、チユキやマオと友達にはなれなかったかもしれない

チユキちゃんの場合は、そうかもしれないけど。

私はずっと、ミユちゃんの友達だし幼馴染だよ?

そうね。でも、スイーツを作らなかったら、私は自分に自信なんて持てなかったし、いつまでも紗彩の後ろを追いかけてばかりだったと思うわ


もっとも、今でもそんなに自信があるわけではないけれどね
ミユちゃんは可愛いし、スイーツだけなんてことはないって
あ、ありがとう///
う、うん///
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登場人物紹介

夏木紗彩(なつきさあや) 高2


夢を諦めた少女。幼い頃からパティシエールに憧れていたが、幼馴染のミユに実力差を見せつけられ、心が折れた。今はコンビニやお店のスイーツをレポする動画「紗彩チャンネル」を運営。そこそこ人気でお小遣い稼ぎにはなっているが、一方で夢を追うキラキラした人たちに嫉妬していて、いつもどこか不満げ。夢を諦めた瞬間から、スイーツの幻影が見えるように。

春風ミユ 高2


夢を本気で追う少女。紗彩の幼馴染で、実家は人気スイーツ店「ハルカゼ」。幼い頃からパティシエールを目指し修行している。スイーツへの情熱が凄い。一方で、本気で努力せず「できない」と口にする人の気持ちが理解できず、女子とは喧嘩になりやすい。そのため、紗彩以外の友だちがいない

クリームの声が聞こえるらしい。

氷崎マオ 高2


夢を応援できる少女。いつもゲーセンで遊んでばかりの帰宅部。友達も多く、リア充。勉強もちゃんとするし、成績は平均より少し上程度。なんでもそこそこにこなせるけど、特別得意なことがあるわけではなく、夢を持っているわけでもない。だから、学生でありながら好きなことで金を稼ぐ紗彩が羨ましくて、それなのになぜ不満を抱いているのか、理解できずにいる。

冬兎チユキ 高2


夢追い人を尊敬し、夢を持ちたい少女
今が楽しければそれでいいじゃん、という考えで適当に生きている。甘いもの大好き、紗彩の動画もチェックしている。普通の女子高生。ミユには嫌われている。

アーニャ 20歳


夢のために他を犠牲にした女。売れない大道芸人。好きなこと以外はやりたくない。だけど、好きなことのためならなんでもする。様々な芸をこなし、歌もダンスもモノマネも出来るし、はやりのネタにはすぐに飛びつく。夢のために高校を中退している。努力家。


黒井先生 


夢を追い別の道にたどり着いた大人。主人公たちの担任にして、体育教師。かつてはプロ野球選手になりたいという、平凡だが大きな夢を抱いていた。レギュラーにもなれず夢に破れてからは、応援してくれた監督に感謝し、彼のような教師になりたいと考えた。必死に勉強し、今の立場にある。


スイーツの幻影


紗彩にだけ見える。「夢を諦めて本当にいいの?」「後悔してない?」と、事あるごとに語りかけてくる。

クリームの幻聴


ミユにだけ聞こえる。心の迷いを表しているらしい。

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