20:大道芸人に

文字数 1,161文字

ミユちゃん? どうしたの? 手、止まってるよ?
な、なんでもないわ。大丈夫
そう? ならいいけど……
(とても大丈夫には見えなかったけど。ミユちゃんが大丈夫だって言うなら、無理には聞けないよね)
君が辛いなんて言うからだよ。作りづらいんじゃないんかい?
(……うっ)
やっぱりここは、君もスイーツ作りを再開するべきだ。きっとそれが、お互いのためだよ
……
 その後ミユちゃんは手を止めることなく作業して、あのチョコメロンパフェを作り上げたよ。ミユちゃんは暗い表情のまま、それを私にくれた。
 甘くて、美味しくて、私にはこのクオリティは出せないと実感して、私はまた悔しくなって。
うん。とっても美味しい。口の中いっぱいに広がるメロンの甘みが――

 だけど。

 そんな感情をごまかすように、レビュー用のセリフをペラペラと吐いた。


 出来上がった動画はその日のうちに編集して、アップしたよ。
        ∩ ・ω・)  カタ        
    /_ミつ / ̄ ̄ ̄/__カタ・・・
      \/___/



 そして翌朝。動画のコメント欄を見ると、常連のアーニャさんが書き込んでいた。

「ハルカゼ」のスイーツ、私も大好きです。仕事の帰りに、よく買っていきますよ!
今度はSAYAさんも一緒に、スイーツ作りをしてみてはどうでしょうか?
次の動画も楽しみにしています(^-^)
ありがとうございます。
私も作るかどうかはわかりませんが、次も「ハルカゼ」のスイーツを取り上げるつもりです。
 このアーニャさんという人は、大道芸人らしく、ツイッターの方もフォローしてくれているよ。
 私もアーニャさんをフォローしていて、よくツイートをチェックしている。
 以前、アーニャさんはこんなツイートをしていた。
 先日、はじめて海外にお呼ばれしてイベントに参加してきました(*`・ω・)ゞ
 幼い頃からの夢が、ひとつ叶ったよー
 つД`)・゚・。・゚゚・*:.。..。.:*・゚
 つまり、アーニャさんは大道芸人になるために頑張って、夢を叶えた人。私とは違う。そんな人に応援されるのは、心強いような、申し訳ないような。




 学校。
 登校すると、さっそくクラスメートたちが声をかけてきた。
動画みたよー!
春風さん、スイーツ作り上手だね
あれをみて、ミユちゃんが虫を入れるなんてミスするわけないって、思い直したよ
ありがとう。でもそれ、本人に言ってあげたら?
 私は席に座って教科書を手に予習中のミユちゃんに、目線を送るよ。
えー?
それは、ねえ……
うん。また睨まれたら、怖いし
そういうわけだから、私らが謝ってたって、伝えておいて
まあいいけど
 というわけで、伝えてみたよ。
ふぅん。
どうでもいいわ
どうでもいいって……
売上が回復するならありがたいことだけれど、別に謝罪が欲しいわけじゃないもの
(相変わらずの毒舌だなぁ)
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登場人物紹介

夏木紗彩(なつきさあや) 高2


夢を諦めた少女。幼い頃からパティシエールに憧れていたが、幼馴染のミユに実力差を見せつけられ、心が折れた。今はコンビニやお店のスイーツをレポする動画「紗彩チャンネル」を運営。そこそこ人気でお小遣い稼ぎにはなっているが、一方で夢を追うキラキラした人たちに嫉妬していて、いつもどこか不満げ。夢を諦めた瞬間から、スイーツの幻影が見えるように。

春風ミユ 高2


夢を本気で追う少女。紗彩の幼馴染で、実家は人気スイーツ店「ハルカゼ」。幼い頃からパティシエールを目指し修行している。スイーツへの情熱が凄い。一方で、本気で努力せず「できない」と口にする人の気持ちが理解できず、女子とは喧嘩になりやすい。そのため、紗彩以外の友だちがいない

クリームの声が聞こえるらしい。

氷崎マオ 高2


夢を応援できる少女。いつもゲーセンで遊んでばかりの帰宅部。友達も多く、リア充。勉強もちゃんとするし、成績は平均より少し上程度。なんでもそこそこにこなせるけど、特別得意なことがあるわけではなく、夢を持っているわけでもない。だから、学生でありながら好きなことで金を稼ぐ紗彩が羨ましくて、それなのになぜ不満を抱いているのか、理解できずにいる。

冬兎チユキ 高2


夢追い人を尊敬し、夢を持ちたい少女
今が楽しければそれでいいじゃん、という考えで適当に生きている。甘いもの大好き、紗彩の動画もチェックしている。普通の女子高生。ミユには嫌われている。

アーニャ 20歳


夢のために他を犠牲にした女。売れない大道芸人。好きなこと以外はやりたくない。だけど、好きなことのためならなんでもする。様々な芸をこなし、歌もダンスもモノマネも出来るし、はやりのネタにはすぐに飛びつく。夢のために高校を中退している。努力家。


黒井先生 


夢を追い別の道にたどり着いた大人。主人公たちの担任にして、体育教師。かつてはプロ野球選手になりたいという、平凡だが大きな夢を抱いていた。レギュラーにもなれず夢に破れてからは、応援してくれた監督に感謝し、彼のような教師になりたいと考えた。必死に勉強し、今の立場にある。


スイーツの幻影


紗彩にだけ見える。「夢を諦めて本当にいいの?」「後悔してない?」と、事あるごとに語りかけてくる。

クリームの幻聴


ミユにだけ聞こえる。心の迷いを表しているらしい。

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