39:君だけじゃない

文字数 656文字

 その夜。自室。
ミユちゃんは私よりも凄いんだって、ずっと思ってきた
私よりスイーツ作りの腕があって、私より努力できる人間で、みんなに作ったスイーツを評価されているのが羨ましかった
それなら、君ももっと努力をすればよかった
そうだね。だけど、私は逃げた
それは何故だい?
頑張ったけどミユちゃんに負けた。ミユちゃんだけがあの日イベントの本戦に出場した
たった一度の負けだけれど、ショックで、悔しくて、ミユちゃんが自分よりずっと上にいたこともわかって……
もう一度負けるのが怖くなった。このまま頑張っても、差が開くだけかもしれない。そんな現実が怖かった
頑張り続けられなかった、私の弱さだ
けど、弱かったのは君だけじゃない。ミユもまた、自分にはない君のコミュ力が羨ましく、不器用なせいも会って、君に置いていかれるのが怖かった
わかってる。ミユちゃんには私しか友達がいなかった。だから、私に置いていかれたくなくて、あれだけ努力が出来た
もちろん、本気でパティシエールになりたいから、というのもあるんだろうけど
あの娘はただパティシエールになるだけじゃない、君と一緒にスイーツ作りをし続けることが、夢なんじゃない?
そうだね。そして、ミユちゃんはそれを打ち明けてくれた
その上で、進もうとしている。マオちゃんやチユキちゃんとも接して、私以外にも友達を作り、足りなかった人間関係やコミュ力を、得ようとしている。

ここでまた逃げたら、私は本当に置いていかれちゃう。この数年、本当はずっとスイーツが作りたかった
ようやく、認めるんだね?
うん。私も進むよ。前に
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登場人物紹介

夏木紗彩(なつきさあや) 高2


夢を諦めた少女。幼い頃からパティシエールに憧れていたが、幼馴染のミユに実力差を見せつけられ、心が折れた。今はコンビニやお店のスイーツをレポする動画「紗彩チャンネル」を運営。そこそこ人気でお小遣い稼ぎにはなっているが、一方で夢を追うキラキラした人たちに嫉妬していて、いつもどこか不満げ。夢を諦めた瞬間から、スイーツの幻影が見えるように。

春風ミユ 高2


夢を本気で追う少女。紗彩の幼馴染で、実家は人気スイーツ店「ハルカゼ」。幼い頃からパティシエールを目指し修行している。スイーツへの情熱が凄い。一方で、本気で努力せず「できない」と口にする人の気持ちが理解できず、女子とは喧嘩になりやすい。そのため、紗彩以外の友だちがいない

クリームの声が聞こえるらしい。

氷崎マオ 高2


夢を応援できる少女。いつもゲーセンで遊んでばかりの帰宅部。友達も多く、リア充。勉強もちゃんとするし、成績は平均より少し上程度。なんでもそこそこにこなせるけど、特別得意なことがあるわけではなく、夢を持っているわけでもない。だから、学生でありながら好きなことで金を稼ぐ紗彩が羨ましくて、それなのになぜ不満を抱いているのか、理解できずにいる。

冬兎チユキ 高2


夢追い人を尊敬し、夢を持ちたい少女
今が楽しければそれでいいじゃん、という考えで適当に生きている。甘いもの大好き、紗彩の動画もチェックしている。普通の女子高生。ミユには嫌われている。

アーニャ 20歳


夢のために他を犠牲にした女。売れない大道芸人。好きなこと以外はやりたくない。だけど、好きなことのためならなんでもする。様々な芸をこなし、歌もダンスもモノマネも出来るし、はやりのネタにはすぐに飛びつく。夢のために高校を中退している。努力家。


黒井先生 


夢を追い別の道にたどり着いた大人。主人公たちの担任にして、体育教師。かつてはプロ野球選手になりたいという、平凡だが大きな夢を抱いていた。レギュラーにもなれず夢に破れてからは、応援してくれた監督に感謝し、彼のような教師になりたいと考えた。必死に勉強し、今の立場にある。


スイーツの幻影


紗彩にだけ見える。「夢を諦めて本当にいいの?」「後悔してない?」と、事あるごとに語りかけてくる。

クリームの幻聴


ミユにだけ聞こえる。心の迷いを表しているらしい。

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