12:君の想像力が乏しいせいだけどね

文字数 772文字

チユキちゃんにも、そうやってありがとうって言えばよかったのに。そうすれば、あんなにみんなから責められることはなかったと思うけど
ムカつくんだもの
ムカつく?
たいして努力もしていない人が、知った風に凄いって褒めてくるの。私、嫌なの

うわぁ。

不器用な上に、性格まで悪い

(私も、人のことは言えないけど)
なによ
ていうか、私にはそんなこと話していいの?
たいした努力してないよ?
してたでしょ
(紗彩はいつも一生懸命だった。そんな紗彩に置いていかれたくて、私は頑張ったのよ。だって、私は紗彩と違って不器用だったから)
ミユちゃんの方が頑張ってた
それに、あなたは私を持ち上げなかった
(むしろ、一緒に学び合って、時に競い合った。同じ場所にいた。不器用な私でも、スイーツ作りならあなたと同じ高さにいられるかもと思ったから、はじめたのよ)
私より頑張ってたことは、否定しないんだ
当然でしょ!
(そうしないと、あなたに置いていかれると思ったもの)
……
……
(だけど、私のほうがあなたを置いていってしまったのね……)
……ねえ、紗彩。本当に、もうパティシエール目指さないの?
…………
ほら。きた。チャンスだ。ここで目指すよって、言っちゃえ。それだけで、苦しいのから救われる
(うるさい。私はミユちゃんほど頑張れない。目指したって、結局また苦しくなる)
なら、諦めたままでいいって?
どっちみち苦しいなら、やるだけやってみればいいのに
(黙ってよ、間抜けな顔してるくせに!)
僕の顔が間抜けなのは、君の想像力が乏しいせいだけどね
……
(きっと、私はまだ怖いんだ。はじめて本気でなりたいと思えたパティシエール。それで頑張っても、結果を出せないこと。私の後を追いかけてきたミユちゃんに、置いてかれること。ミユちゃんだけが成功した時、私はミユちゃんの成功を喜べない。それが怖いんだ)
紗彩……
(だけど、私は……)
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登場人物紹介

夏木紗彩(なつきさあや) 高2


夢を諦めた少女。幼い頃からパティシエールに憧れていたが、幼馴染のミユに実力差を見せつけられ、心が折れた。今はコンビニやお店のスイーツをレポする動画「紗彩チャンネル」を運営。そこそこ人気でお小遣い稼ぎにはなっているが、一方で夢を追うキラキラした人たちに嫉妬していて、いつもどこか不満げ。夢を諦めた瞬間から、スイーツの幻影が見えるように。

春風ミユ 高2


夢を本気で追う少女。紗彩の幼馴染で、実家は人気スイーツ店「ハルカゼ」。幼い頃からパティシエールを目指し修行している。スイーツへの情熱が凄い。一方で、本気で努力せず「できない」と口にする人の気持ちが理解できず、女子とは喧嘩になりやすい。そのため、紗彩以外の友だちがいない

クリームの声が聞こえるらしい。

氷崎マオ 高2


夢を応援できる少女。いつもゲーセンで遊んでばかりの帰宅部。友達も多く、リア充。勉強もちゃんとするし、成績は平均より少し上程度。なんでもそこそこにこなせるけど、特別得意なことがあるわけではなく、夢を持っているわけでもない。だから、学生でありながら好きなことで金を稼ぐ紗彩が羨ましくて、それなのになぜ不満を抱いているのか、理解できずにいる。

冬兎チユキ 高2


夢追い人を尊敬し、夢を持ちたい少女
今が楽しければそれでいいじゃん、という考えで適当に生きている。甘いもの大好き、紗彩の動画もチェックしている。普通の女子高生。ミユには嫌われている。

アーニャ 20歳


夢のために他を犠牲にした女。売れない大道芸人。好きなこと以外はやりたくない。だけど、好きなことのためならなんでもする。様々な芸をこなし、歌もダンスもモノマネも出来るし、はやりのネタにはすぐに飛びつく。夢のために高校を中退している。努力家。


黒井先生 


夢を追い別の道にたどり着いた大人。主人公たちの担任にして、体育教師。かつてはプロ野球選手になりたいという、平凡だが大きな夢を抱いていた。レギュラーにもなれず夢に破れてからは、応援してくれた監督に感謝し、彼のような教師になりたいと考えた。必死に勉強し、今の立場にある。


スイーツの幻影


紗彩にだけ見える。「夢を諦めて本当にいいの?」「後悔してない?」と、事あるごとに語りかけてくる。

クリームの幻聴


ミユにだけ聞こえる。心の迷いを表しているらしい。

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