61:取り戻そう、活かそうと思った瞬間から、通ってきた道は今に活きる

文字数 1,574文字

そうですね。少し長くなりますが……。

私は夢に破れ、新しい道として教師を選びました

教師という未来ある若者たちを導く仕事には、やりがいを感じていますし、私自身も生徒から学ぶことが多く、日々関心させられます
この道を選んだことに後悔はありませんが、ふと思ってしまうことがあるんです。夢を諦めず追い続けていたら、どうなっていたのだろうか、と
(夏木さんの前ではかっこつけましたが、私にも未練は少し、あるのです)
なるほどなるほど
それはどんな道を選んでも同じことだよ。私も、まだまだ安定した収入を得られるパフォーマーじゃないし、来年の今頃は収入ゼロかもしれない

今は楽しいし、可能性も、未来も感じている。だけどほかのパフォーマーを見ていると、時々思ってしまう。


今の私のやり方は正しいのかな、ほかにやりようはあったんじゃないかなって

過ぎたことを気にしても仕方ない。今進んでいる道に後悔もない。だけど、ふとした瞬間に過去の選択を振り返ってしまう、ということですね
私はそこまで気にしていないつもりだったのですが、時々夢に出てくるんですよね。

高校生時代に戻って、野球をしている自分が。

生徒を導き応援する立場でありながら、心の奥底では、まだ自分が輝く道を探しているのかもしれません
そうそう。今に満足していようといまいと、過ぎた過去というのは、時々夢に出てきてしまうものなんだよね。それとも、やっぱりソレは”本当の意味では現状に満足しきっていない”のか……
私も、高校時代の夢、みるよ。

そして、今この一瞬一瞬も、過ぎた瞬間に、これでいいのかと思ってしまう

世の中にはうんと小さい頃からパフォーマーの修行をしている人もいるし、私とは違う芸を練習している人もいる
それで成功しているのをみると、あっ、私もこのパフォーマンを練習しておくべきだったかも、なんて思っちゃったり
そう思ったのなら、今からやればいいのではないでしょうか?

高校時代の夢とは違い、一瞬一瞬の後悔なら、すぐに取り返せます

まーね。

だから、私も新しいことにチャレンジしようとしてて

新しいこと、ですか
しかし、私の場合は、選んだ道は教師で、選ばなかった道は、野球選手。違いすぎて、今からはどうしようも……。夢の中でだけ、あの頃に戻って一時的に満足するしかないのでしょう
そんなことないんじゃない?

高校時代に戻ってしまう夢の内容そのまま、とはいかないまでも、取り戻しようはあると思う

過去と今が違う道だろうと、それがどれほど過去だろうと、結局は同じことだと思うんだ。

取り戻そう、活かそうと思った瞬間から、通ってきた道は今に活きる

諦めた夢。

叶わなかった夢。

夢のためにしてきた、なにか。


そういったことのすべては、なにかの形で今に活かせる夢に無駄なことなんて、なにもないんだよ

つまり、ね?

野球選手を目指していた頃に培った経験。今からでも活かせる道はあるんじゃないかな?

野球部の顧問……とかですか?

それも1つの道だよね。

だけど、ほかの道もある

ほかの道?
今度、パティシエール見習いさんと一緒に、スイーツ×大道芸によるパフォーマンスをするんだけど、ブラックさんも参加してみない?

そこで野球の経験を使えと?

方向性が違いすぎませんか?

だから面白いんだよ
はあ……
まあ可能かどうかはやってみてから、さ?

その結果、今のブラックさんが誰かを笑顔にできたら、素敵じゃない?

やってみなくちゃわからない、というわけですね
イエス!

そうですね。

あの日培った野球のスキル。今もう一度使えるのなら、試してみる価値はあるのかもしれません

そうそう!

どんな結果になろうとも、やってみることでスッキリすることだってあるはずだからネ!

今なにもしなかったら、未来に見る夢の中に、なにもしなかった今が出てきちゃうよ!
わかりました。では、練習に付き合ってもらえますか?
りょ!(・∀・ゞ
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登場人物紹介

夏木紗彩(なつきさあや) 高2


夢を諦めた少女。幼い頃からパティシエールに憧れていたが、幼馴染のミユに実力差を見せつけられ、心が折れた。今はコンビニやお店のスイーツをレポする動画「紗彩チャンネル」を運営。そこそこ人気でお小遣い稼ぎにはなっているが、一方で夢を追うキラキラした人たちに嫉妬していて、いつもどこか不満げ。夢を諦めた瞬間から、スイーツの幻影が見えるように。

春風ミユ 高2


夢を本気で追う少女。紗彩の幼馴染で、実家は人気スイーツ店「ハルカゼ」。幼い頃からパティシエールを目指し修行している。スイーツへの情熱が凄い。一方で、本気で努力せず「できない」と口にする人の気持ちが理解できず、女子とは喧嘩になりやすい。そのため、紗彩以外の友だちがいない

クリームの声が聞こえるらしい。

氷崎マオ 高2


夢を応援できる少女。いつもゲーセンで遊んでばかりの帰宅部。友達も多く、リア充。勉強もちゃんとするし、成績は平均より少し上程度。なんでもそこそこにこなせるけど、特別得意なことがあるわけではなく、夢を持っているわけでもない。だから、学生でありながら好きなことで金を稼ぐ紗彩が羨ましくて、それなのになぜ不満を抱いているのか、理解できずにいる。

冬兎チユキ 高2


夢追い人を尊敬し、夢を持ちたい少女
今が楽しければそれでいいじゃん、という考えで適当に生きている。甘いもの大好き、紗彩の動画もチェックしている。普通の女子高生。ミユには嫌われている。

アーニャ 20歳


夢のために他を犠牲にした女。売れない大道芸人。好きなこと以外はやりたくない。だけど、好きなことのためならなんでもする。様々な芸をこなし、歌もダンスもモノマネも出来るし、はやりのネタにはすぐに飛びつく。夢のために高校を中退している。努力家。


黒井先生 


夢を追い別の道にたどり着いた大人。主人公たちの担任にして、体育教師。かつてはプロ野球選手になりたいという、平凡だが大きな夢を抱いていた。レギュラーにもなれず夢に破れてからは、応援してくれた監督に感謝し、彼のような教師になりたいと考えた。必死に勉強し、今の立場にある。


スイーツの幻影


紗彩にだけ見える。「夢を諦めて本当にいいの?」「後悔してない?」と、事あるごとに語りかけてくる。

クリームの幻聴


ミユにだけ聞こえる。心の迷いを表しているらしい。

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